第7話 ハヤシライスはハヤシさんが発明した説



 世界には理というものがある。

 それはルールではなく超えては行けないラインだ。


 そのラインを超えた場合はどうなるのだろうか?

 理の秩序を護る生命体により無かったことにされる。


 無かったことにされるとどうなるのか?

 世界の構造上、木から枝が切り落とされフラッピングエーテルが無くなる。


 魔科学に頼ったこの世界からフラッピングエーテルがなくなるとどうなるか?

 ライフライン、生活に必要な供給が止まり治安が悪化。


 魔モノに対抗する力を失いゆっくり滅んでいくだろう。

 一部を除き。


 運良く代替えエネルギー科学で文明を発展させるかもしれないが遠い未来となるだろう。




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「先生〜、無かった事にするとなぜフラッピングエーテルが無くなるのかわかりません。木と枝ってなんですか?」


 私はアヤにこの世界についてなど聞いていた。

 イチゴとホイップクリームのクレープを宿で作ってたのだけどアヤが物欲しそうに見すぎな上に黙ってもじもじしてたから情報を対価にあげる予定。

 対価は別にいらないけどなんかもじもじしてたしそっちの方が受け取りやすいのかな〜?って思って。

 私が作れるお菓子はあまり多くないけどクレープはよく自分用に作ってたから得意なんだよね〜。


「いや〜、綾子は良い子ね〜。アーニアみたいになっちゃダメよ〜?クレープクレープ♪」


 親戚のおばさんか!まあでもそこまで悪い気はしないけど。

 綾子扱いしてくれるしね?


「でね、木っていうのはね、この世界の事。過去から未来に向かって木が伸びるイメージね。枝っていうのは可能性の分、未来が枝分かれするって事ね。ありがちよね。枝の中にも沢山の宇宙が織り成して一つの大きな未来に進んでいるの。その宇宙毎に経過が変わったりするから未来は一つではないけど大きくみて同じ様に収束するの。収束する未来から外れた場合は新たに枝が分岐するの。あ、ちなみに基本的に過去や未来へ行くのは理に反するしそもそも出来ないかな。基本的にはね。」



「へー、パラドックス気にしないタイプなんだね。宇宙って。あれ?私がいた地球は?フラッピングエーテルみたいなのなかったよ。」

「あなたがいたところは切り落とされた枝ね。魔科学とかいわゆる魔法みたいなものが無いならそうよ。」

「あー、そうなんだ」

「そうなの、この世界、いや宇宙の木の枝はね、揺らいでるの。それは羽ばたく様にね。その時に生じる熱が力となり粒子となり宇宙に散らばってるの。それがフラッピングエーテルよ。」


 あー、だから落とされた枝じゃダメなんだろな。

 でもまるで見たことあるかの様な言い方だけどそういう説明が必要だったんだろうな?


「先生〜、理の秩序を護る生命体とはなんですか?」

「うーん、なんといえばいいんだろうね?余分な枝を間引く庭師みたいなものかしらね。余分というのは神の領分に抵触しちゃうことかしらね。まあこの枝は贔屓されてるみたいだけどね。ほんとは切り落とされても不思議じゃないんだけど辻褄が合わせられてるかギリギリ抵触しないようにしてるみたい。ちなみにツムギちゃんもその庭師の成れの果ての1人よ。ふふ、この世で1番神みたいなものなのよ。餌付けしたりラインを越えなければ友好的だし基本的には何事にも中立よ。ね、ツムギちゃん!」


「はい、私共は基本的にはご飯が食べたいので理を越えた行為さえしなければ中立、というよりは面白い事なら手を貸しますよ。理を越えたらアヤ様、アーニア様と言えど容赦しませんよ。」


「へ〜!神様っているんだ!しかもツムギちゃん神様!すごい!」


 随分、俗世が好きな神様だな、って思った。

 まあ何千年も生きてる人もいるしね、もう驚かないぞ。

 アヤの知識もツムギちゃんに聞いたんだろうな。

 なら納得だ。


「いや、神ではなく一応ある種の生物が人型にコンバートした姿よ。神はちゃんといる…らしいわよ、ハハハ」

 コンバートかー、ノアやナツも言ってたなあ。

 ツムギちゃんも亜神?とか神獣みたいな感じなのな?

 格はかなり高そうな気はするけど。


「ふーん、そうなんだ。アヤは?アヤはなんなの?私によく似てるのは偶然?他人の様にも感じないけど。名前とかね。ほら似てるし。」

「あー、ん〜細かいことはアーニアがいる時に話たいわねー。ややこしいし混乱すると思うしさ。まあ、私達は血が繋がってないけど親戚とか……――そう従姉妹みたいなものだと思ってなさい。ちなみに生まれはこの星で両親もいたし遺伝子レベルでも別よ。よく似てるのはまあ、あなたとは魂が似てるってことくらいしか今は説明できないかな?」

 なんだろう?平行世界とかがあってそこの私の転生バージョンとか?そもそも転生者っているの?

 でもそれが1番しっくりくる。


 アーニアもそうなのかな?

 それか平行世界の私とか?

 エレナも魂核が同じっていってたけどよく似ていたのかな?

 というか私はどうしてこの世界にいるのだろう?


 うーん、まあ頭の出来が悪い私はそのくらいの情報を小出しに重ねてくれた方が良いし、今知るのはこれくらいで良いかな?


 あ、そうだ。


「アヤって何歳?」

「ふふ、まあ女通しだしいいけど久々に聞かれたからびっくりしたわ。わたしはこの身では4000年くらいは生きてるわよ。アーニアほどじゃないけどね。アーニアの歳はアーニアに聞いてねー。」


 まー、そうだよね。なんかそんな気はしてた。アーニアはそんな長いこと生きてるのか。アヤも4000年って、地球だと西暦どころか紀元前とかから生きてる様なものよね。この人達はする事があるから生きてるのかな?わたしはそんな長く生きてもね。


「まあ私もあそこ、アーニアのとこの妹達とは違う組織だけど結社の仕事は手伝ってるわよ。アルバイトみたいなものかな?だから長く生きる必要あるの。結社の仕事はそんな数十年生きたくらいじゃ出来ないのよ。」


 へー、エレナやセレナもそうだけど大変そうだもんね。



「でさ、綾子……」

 ん?どうしたの?そんな物欲しそうな顔して――あ!!

「ごめん、話聞いてたら忘れてたー。はい、クレープどうぞ。ツムギちゃんもどうぞ。」

「え、ツムギちゃん対価払ってないのにズルい!」

「ツムギちゃんは手伝ってくれたからいいの!それに少しはお話ししてくれたでしょ?アヤもお菓子作り手伝う?」

「あ、いや、私は遠慮するわ……。」

「アヤ様はお嬢様育ちでお料理とかはからきしなんで。」

 ツムギちゃんは笑顔で答えるが

「卵くらいかき混ぜたり出来るわよー!」

「絶対にやらせません!」


 あ、察し。卵かき混ぜても必要以上に周囲を汚す人を家庭科調理の授業で見たことがある。

 あれは才能だ。

 ママも料理はあまり得意じゃなかったなあ。


 ショゲながらもアヤ美味しそうに食べてるし私は満足だ。

 あーもう!口の周りにクリームいっぱい付けちゃって。

 拭いてあげる、あ!口の周りペロペロするな!お行儀悪い!

 私に似た顔だからたちが悪い!

 まあなんというか私によく似た人が料理出来なくてショゲてるのも微妙な気分だけどね。

 まあ宿借りてるしハヤシライスくらい作ってあげようか。

 その話をしたら案の定、食いつきがよかった。

 ツムギちゃんの料理も美味しいんだけど目新しいものは食べたいんだろうか?

 と、まあこんな感じで料理つくったりアヤに話を聞いたりして過ごした。

 この宿も村も結社に関わる人間や関係者用の集落らしい。

 ただし食堂の客以外で宿泊客はいままでみていない。

 出張用なのかな?そしてアヤはこの地域の結社とは違う組織だけど支部として仕事を請け負ってる組織の代表らしいが至極あまり興味がなかった。

 ちなみに組織の名前は『アヤの宇宙科学研究所』で主に宇宙を観測しフラッピングエーテルの揺らぎから星を探したり、この恒星系に向かってくるモノがないか、それら検知する魔科学機構の開発らしい。

 しかし、アヤのアトリエとかそっち系じゃダメなんだろうか。

 なにか真面目すぎる気がしないでもない。

 結社の名前はなんだろな。


 あと1週間くらいしたらエイバナの村近くまで送ってくれるらしく、結社にも連絡してくれたみたい。

 エレナやセレナにも連絡がいくらしい。

 移動手段はなんと飛空艇だって!

 飛空艇!まじかー!やったー!楽しみだね!どんなんだろね!


 ハヤシライスいっぱい作んなきゃね!

 しかし、玉ねぎや肉が足りないな。

「ツムギちゃん、ハヤシライスの材料買いにいかない?」

「わかりました!噂のトマトやブイヨン等を使う料理ですね?行きましょう!宿は一時閉店です!どうせ客なんて昼か夜しか来ません!」

 牛すじカレーを初日に作って、ツムギちゃんの餌付けは完了している。

 ハヤシライスの話は元々していたけどその時も食いつき凄かった。

 やっぱり料理をしているのも食べるのも楽しいらしい。

 ツムギちゃんメモもとらず丸暗記してるのが特に凄いし牛すじカレーもすぐ再現したので本当に料理が好きなんだね。

 残りの1週間はツムギちゃんに沢山レシピを伝える予定だよ。

 でもハヤシライスのハヤシってなに?ハヤシさん?まあいっか。


 そしてここの村、というか集落かな?この集落に名前はないらしい。

 そしてここには雑貨屋さんがあり野菜が大量に売ってあるのだ。

 そこにツムギちゃんと来た。


 この雑貨屋さんは組織の購買の様な位置づけらしいがなんでも売っている。

 食料品、武具防具、調理機器から香辛料や調味料、布団から時計、筆記用具から家具まである。

 ここでは玉ねぎと牛肉(?)と牛すじやバターやニンニクと各種香辛料調味料調理酒を大量に買った。

 アヤにも頼まれたけど集落のみんなにハヤシライスをふるいパーティーをするのだ。

 そういうのウエルカム!

 楽しいよねー!クレープも沢山つくるかー


 荷物をツムギちゃんと手分けして持ち集落を歩いてるいるとアヤの組織のみなさんが荷物を持とうとしてくれたりとてつもなく優しいのだ。

 やんわり遠慮したら残念がられた。

 みんな女の子だよ。

 たまに涙を流し拝んでくる方もいてそれはドン引きした。

 流石にやめていただきたかった。

 アーニアじゃないって伝えてるはずなんだけど――また聖女みたいな感じに崇拝されてるんだろうか?

 いままでアーニアのとばっちりが酷い。

 まあ助かったところもあるけどさ。


 ちなみにハヤシライスにかかる費用はアーニアに請求するらしい。

 大丈夫?怒られない?私は作るだけだしいいけどさ。

 あと予定通り食堂でハヤシライスパーティーを行いデザートにクレープを配った。

 なぜかアヤも配る係を手伝ってくれた。

 みなさん喜んでくれてわたしゃ嬉しいよ。

 けどみなさんクレープ配る時に並んで握手していくのがよく分からなかった。「この地に2柱が…」って聴こえたけどアーニアと思われてる?アーニアもどうやら偉い人っぽいし。

 私アーニアじゃないからね。

 アヤもアーニアもアイドルなのかな?


 そのつもりもなかったけど結果的に握手会になっちゃったね。

 まあ私ここに住んでもいいな、なんてちょっと思っちゃったよ。

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