第2話 聖女詐欺
「姉さん!聖女様がいらっしゃった!」
聖女?
「レイちゃん、おじいさん聖女って言ってるけど……」
「聖女か〜、綾子大変だね〜聖女の振りしてね」
こんなスウェット姿で引きこもりで肌の悪い聖女なんかいないでしょ。
レイちゃんの事でしょ。
村長さんのお姉さんが家から出てきて深めにお辞儀をしてくれた。
綺麗なおばさん?おばあさん?おねえさん?御歳のほどがわからない……
「こんばんは!リーシャです!聖女様、ご無沙汰しております!また生きている内に会えると思いませんでした!聖女様の髪の色、相変わらず美しいですね!」
星海の様にキラキラ目を輝かせリーシャさんは言う。
私達、初対面だと思うんですよね
まあ、私はアルビノってわけでもないんだけど、全身白髪っぽい感じにほんのりピンクの様な緋色のような?少し盛った表現をするとプラチナピンクである。
なんでか誰にも触れられてこなかったけどね……なんでだ?
それはさておき
リーシャさん本当に綺麗だな〜。
若いころモテたんだろうなあ、という印象の女性。
笑顔が素敵!かわいい!
レイちゃんがチラッとこちらを見る。
わかったよ〜。
「ご、ご無沙汰し、ししておりゃしっっ」
やべ、舌噛んじゃった!私には無理だよ、とほほ……。
む〜、レイちゃんをチラッとみる。
レイちゃんが頷く。
よろしく〜!!
「少し口内炎が出来ている様で、私が代理でご挨拶させていただきます。」
レイちゃん、口内炎出来てるってよくわかったね……
「この度は、急な来訪にも関わらずこちらまでご案内いただきありがとうございます。私はレイ、こちらはアヤコと今は名乗っています。」
レイちゃんすごい!でも、なんかお堅い!
なるほどね、「名乗ってる」って宣言するだけで偽名使ってるけど察してね〜感が出したのね。
聖女様の名前とかわからないもんね。
「貴女も、貴女様も聖女様なのですか?そのフラッピングエーテルの纏い方は……」
フラッピング?エーテルって何?
私は銀河を走る鉄道アニメのヒロインを思い浮かべた。
そして、やっぱり私が聖女なんだ……。
「私もある程度嗜んでいますがアヤコとは親友で一緒にいるだけで聖女とは呼ばれたことはありません。出来る事は枝だけで木を軽く切り倒したり、魔法を多少使えるくらいですよハハハ」
半分は口からデマカセもいい所な内容をレイちゃんはペラペラと喋り始めた。
親友っていうのは本当だよ。
なんか照れるな〜エヘヘ。あと、なんかレイちゃん楽しそう。
「まあ、レイ様も聖女様と同じレベルの力量をお持ちと言うことですね!聖女様が2人!って私どもが勝手に聖女様とお呼びしているだけでした、そういえば。」
と愉快に語る。
私達は苦笑い。
リーシャさんが私に近づき、私の手を両手で握り、微笑み今にも泣きそうな顔で語る。
大丈夫?私、臭くないかな?リーシャさんいい匂いする。
「本当に全然お変わりないのですね。40年前は本当にありがとうございました。作っていただいた薬のおかげで私も皆も救われました。弟のリガルドも聖女様に似た女性が好みになっちゃって……リガルドの嫁には言えないですよ。」
と笑いながら話した。
やばい、全然話が読めない。
けどどうやら聖女様は私と全然変わらない容姿をしてこの村を救った様だ。
40年前だと聖女様もお婆さんなんじゃないの?そして村長のリガルドさんは聖女様が好みと。
リガルドさんをみると……、あ、顔逸しちゃった。
顔も耳も赤くなってる。
周りの兵士さんはニヤニヤしながらリガルドさんをイジってる。ふふ、仲良いね。
「ふふふ、今日はちょうど聖女様に教えていただいた牛すじカレーを作ってましたの。上達したか確認頂きたいです。ふふふ」
リーシャさんはそう語り、どこか懐かしむ様に目を細め微笑む。
私が伝授したらしい牛すじカレーを御馳走してくれるらしい。
私はもうその辺を考えるのそろそろやめたいと思う。
カレーが食べられる!?ヤッタね!!
確かに私はカレーが得意。
香辛料を混ぜて作るしルーは使わない。
牛すじカレーも私が初めて作った料理。
全てはあの人にカレーの作り方を教わったことから始まり、それからカレー作りに凝ってしまったのだ。料理が出来なかった私はカレーが作れる様になったのが嬉しかったし、あの人においしいカレーを食べて欲しかった。
他の料理も今では出来る様になったしカレーだけはあの人よりも美味く作れる様になった。
私が遠い顔をしていたのだろう。レイちゃんがぽんと頭に手を乗せる。あ、ごめん。
「御馳走になります!」
そう言ってリーシャさん宅にお邪魔する。
あれ?シンリュウどこいったのかな……?
リーシャさん宅は丸太を重ねたログハウスの様な造りで木の匂いがとても居心地がいい。
4人用のテーブルに座って牛すじカレーを食べる。リガルドさんも一緒だ。リガルドさんがチラチラ見てくるので気付かない様にしている。
「こら!リガルド!聖女様をチラチラするんじゃないの!失礼でしょ!嫁にいうよ!」
「聖女様、も、申し訳ございません!つい懐かしんでしまい、へへへ……」
大丈夫ですよ……
リガルドさんが少年の様に笑う。
リガルドさんの初恋だったのかな?
聖女様いまどこにいるんだろ……などと考えてしまった。
そして、カレーなのだが!この味は!?私が作るものに物凄く似ている。
牛すじカレーは胡麻油を混ぜネギを乗せ和風にするのが私の中での定番なんだけど、リーシャさんのカレーにもしっかりと胡麻油の香りがしてネギが乗っているし味も洗練されて多少アレンジが加えられている。
具も溶かし気味にするのがコツだ。
そこまでは良いけど牛すじね。
これはこれでおいしいけど、なにかが足りない。
牛すじを煮込む前に筋に沿って切り込みを入れ果実をふんだんに使ったタレを作り漬けこんで柔らかくするんだけどそこかなあ?
リーシャさんが鋭い眼光で私を見ている。
感想待ちですか?
「姉さんも聖女様を見すぎじゃないか!」
仲良いなこの姉弟!
「凄くおいしいですよ!レシピに加えアレンジされてますよね。ニンニクの配分は私のレシピよりこっちの方がおいしいかも!牛すじの煮込み語り合いが私と違う気がする…んですよね。」
あ、私ペラペラ喋れてる!すごくねーー!?
リーシャさんは苦笑い。
「なるほど、出来ればタレの作り方と漬け方も後ほど教えていただきたいのですが、いえ、あの時は時間がない中……あの、その」
ごめんなさい、聖女様に代わってごめんなさい。
聖女様しっかりレシピ書きなよ〜、私だったら絶対書くな〜。
ぷふふ、おっちょこちょいだなー聖女様。
おっとついイキッてしまった。
でもカレー自体のレシピも微妙に違うのかも?リーシャさんがアレンジしたにしても元のレシピが少し大雑把な気がする。
私の中のレシピだと牛すじカレーversion0.9くらい?少し洗練度が低い気がする。
「すいません、明日お料理の際に牛すじ煮込みやタレのレシピをお伝えします。」
明日も泊まる魂胆だ。
「是非是非、旅の物資の調達が出来ていませんし何日でもお泊りください。あとですね……」
え?なに?リーシャさん難しい顔して。
お金ならないよ……どうしよ……。
この上下スウェットいるかな……?ちょっと臭いけど。
「他にもカレーやお料理のレシピがありましたら教えていただく、あ、いえ決してそんなわけでは……あ、それに前みたいにリーシャちゃん呼びでもいいのですよ……私どもより永い永い時間を生きていらっしゃる方なのですから」
あ、なんだ〜。
何日も泊まれる……良かった。
聖女様にリーシャちゃんって呼ばれてたんだ〜。
聖女様ってエルフとかなのかな?エルフいるのかな?この世界。
「は、はい、沢山レシピをお伝えします。リーシャちゃん覚悟してくださいね。へへ」
リーシャさん、改めリーシャちゃんが全身を震わせて喜び始めた。
という事で明日から当分お料理教室になりそう。
レイちゃんがさっきから頭を撫でてくる。
もっと撫でて!
リーシャちゃんが「リーシャちゃんって呼んでくれたわリーシャちゃん、ふふふ」っとトリップしてしまった。
あれ、リガルドさんもなんかチラチラみてる、まさかね……。
「リガルドくんも明日食べに来て下さいね。」
私は気を利かせた。引きこもりに気を遣わせてはいけないのだよ、リガルドくん。ちゃんと家族を連れて来るのだよ。
リガルドくんはあからさまに顔を赤くしている。
少年みたい。
「綾子、わたしも肉じゃがくらいなら作れるよ」
レイちゃんがいう。
私はすごく嫌そうな顔したかもしれない。
でもレイちゃんには料理させちゃ駄目だ……以下略
「レイちゃんはスキルの練習した方がいいんじゃないかな……?」
レイちゃんの顔がパーッと明るくなった。
「そうだ!それだ!綾子頭いい〜、練習する!」
レイちゃんかわいいな〜、そんな頭撫でるなよ〜、エヘヘ。
「あ、でも綾子も少し運動しよ〜?私がおんぶばっかするわけにいかないでしょ?」
あ、うんがんばる……多分、うん、がんばる。
でも当分の寝床確保出来たし、村にいる間に出来る事をしたいと思う。
この世界についても知りたいし。
ご飯のあとは眠くなってしまい、リーシャさんに寝床を案内していただいた。
あとね、お風呂や水道がちゃんとあるの!中世レベルじゃないし電気ではないらしいけどちゃんと灯りもあって明るいの!やっぱりエーテルがどうのらしい。
レイちゃんはこの世界の住人の体で探りを入れながらふんふんと聞いてたけど私はよくわからなかった。
お風呂もあるし部屋も借りてベッドふかふかだよ〜!もうこのままここに住んでも良いかも〜。
「なんとかなったね綾子。」
「聖女詐欺だけどね……」
「ぷっ!確かにね。タイトル的には聖女詐欺で営む異世界生活?って感じかな~」
「どこかできいたことある~!」
「ハハハ」
レイちゃんは気丈に振る舞ってるけど大丈夫かなあ〜。
レイちゃんに甘えてばっかりじゃ駄目だな私。
「レイちゃん、がんばって生きていこう。おやすみ」
いつも撫でられてる様に、今回は私がレイちゃんの頭を撫でた。
「うん、おやすみ綾子」
私も寝よ。
ママどうしてるかな〜。なんて考えたら。
涙が頬を伝い口に入った。しょっぱい……。
疲れた私はすぐに微睡み、眠った。
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