スワロウテイル ~高く昇る月と私の異世界冒険譚

ノエル・フォン・シュテュルプナーゲル

チュートリアル編『理を超えて』

第1話 PrologueとEpisode

「これが夢だったらいいな。」


 いい事もわるい事もそう思ったことがあった。


「この夢が現実になればいいな。」


 そう思っても何もしないことだらけ。


 ただただ「こうだったらいいな」なんて考えて成り行きに任せてしまうのだ。

 私はなにもしない。

 積極性はないけれど、多少歩んだりもした。


 だけどそれまで…何事も祈るだけ。私には願いなんてなかったのだ。

 願いがない故に、私はなにも叶えられなかった。


 暗闇の宙の中でひときわ輝く星の様な光。

 私はものごごろ付いたころから"そればかり"を見上げていた。


 俯きたくなる時は"そればかり"を見上げていた。

 高く高く昇る月。

 宵闇を照らす唯一の光。

 叢雲が隠してしまう時もあったけど、隠されたなら切り開けばいいと気付いた。


 "それ"は私に"願う"ことを教えてくれた。


 どこまでも、どこまで手を伸ばし、空を仰ぎ、私は光を求めた。

 酸っぱい果実のように輝き、今日も夜道を照らしてくれる。


 これは空高く昇る月と何の能力も持ちえなかった『私』の物語。

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「眩し……」


 カーテンの隙間から木漏れの様に光が射し視界を奪う。


 いつからだろう?

 こんな感じになってしまったのは……


 ベッドと机、多少の本だけがある。

 あ、パソコンもあるよ。

 過ごす時間はほぼこの空間とキッチンだけ。


 単純に家から出られなくなっちゃって、ずっと部屋に籠っている。

 私、留年かなあ……

 高校休んで1年くらいか?もう退学かも?

 はあ……終わったし詰んだ。


 華すらないJK、いやJKですらなくなるかもしれない。


 布団から顔だけだしため息をつく。吐息が白い。

 丁度今くらいだったかな寒くなってきたかな?ってくらいの時。


 『あの人』が消えた。


 ただソレだけ。


 それだけで私は生きる意味を失っている。

 ママを悲しませたくない。親友を悲しませたくない。

 ただそれだけが私を辛うじて繋ぎとめている。

 なーんてな!!なーん…てな…ハハハ…


 十分大事な人達を悲しませてるじゃんね…。

 でもさ、思う様に外に出られないのだ。


 寒くなってきたし余計布団から出られない。

 今日はご飯どうしよ。

 ご飯くらいは作らないとママお弁当なっちゃうな…。

 ママお料理出来ないし。

 

 『あの人』どこに消えたんだろう。


 『あの人』っていうのはね、お隣さんでずっと幼少期からずっと一緒だった幼馴染のお兄ちゃんみたいな人。

 その日も私は彼の部屋の明かりをこっそり窓から監視していた。

 ストーカーとかそういうのじゃないんだよ?これは私の義務であり、役目なのだ。

 私は私の思うままに覗いているのだ。


 違うんだよ?


 いや、あの、数年前に彼の両親が他界して以来ずっと夜ごはんはウチで食べたりとか、ちゃんとした仲良しな関係で一方的じゃないから。


 話がそれちゃったけど


 なんかずっと夜中遅くまで明かりがついててね、女の子でも連れ込んでるんじゃないか?って思って家の様子をママと見に行ったんだけど……

 

 あの人は消えていた。


 あの人がいた痕跡はあった。

 料理をし終えてこれから御飯食べるのかな?みたいな感じで…

 冷めた御飯だけ残されてたの。


 合鍵はママが管理してたから入れたんだけど靴もそのまま荷物もなにも持ち出しされた形跡もなくていなくなったというより…


 消えた。


 最後、ごはんを作ってたのかな?冷めたお味噌汁やご飯が手を付けられずそのままになっていた。


 ちなみにママは絶対に私に合鍵を触らせてくれなかった…

 別にいいじゃんね、くそ!


 1年たったいまも毎日窓から覗いてる。

 部屋の明かりがつくんじゃないか?って。


 彼は消えた。


 それなら……、また現れるんじゃないか?って思いこんだりもした。

 それでまた一緒にご飯つくったり、優しく笑いかけてくれるんじゃないかって。

 それを考えるのをやめるだけで楽になるのは知ってるけど、簡単にはいかない。


 現実ってなに?って最近よく考えるの。

 実は夢を観ていて、目が覚めればそこには優しいあの人がいる。

 なんてことはなく無情な白い天井しか見えない。


 所詮、現実逃避でしかないことはわかっている。


 だけど……

 目を閉じればほら、アナタはそこにいる。

 優しく微笑み、そこにいる。


 私は再度深くため息をつく。

 何度も何度も毎日毎晩繰り返してきたため息だ。

 ため息だけで吐き出された二酸化炭素量はどれぐらいなのだろう。


 私の愁いと二酸化炭素量はおそらく比例しているので測れるのなら測ってみたい。


 でも、このままじゃいけないしママも親友の子にも心配かけちゃうし今日こそ家から少し出てみようかな…?




 いや、無理むり~~~~~!!!!!!


 無理でしょ?むりむり!


 薄暗い部屋で頭を左右に思いっきり振って一人でヤベーやつをしてたら部屋のドアが喧しいほどに叩かれた。


 ドンドンドン!!ドンドンドン!


 うるせぇ……


「綾子~!来たよ~!」


 ちなみに綾子とは私です。篠村綾子です。雑な紹介でごめんね……

 うら若き華の乙女17歳!


 ドアを叩いていた子はレイちゃん、フルネーム月詠令で苗字は「ツキヨミ」と読み私の親友です。

 容姿は清楚、凛とした印象がある黒髪ロングヘアーな美少女、ものすごい美少女。

 ただし、容姿とギャップがあり、すこしうるさいです。

 凄くはしゃいでる可愛い子!!


 中学校三年生くらいからだね。

 クラスの入れ替えが合って、席がたまたま後ろでたまたま帰る方向が一緒で仲良くなって、毎日一緒にワクドルナドで100円バーガーを公園や河原で食べたりして…あれ?なにしてたっけ?

 とにかく毎日喋ってた。

 そして同じ高校にいった。


 こんな可愛い子いるんだー!絶対友達になろう!って思って友達になってもらったの、えへへ。


 でもね、今誰にも会いたくない…いま現在大変メンドイ状態だよ?

 私なんかほっとい「綾子~!チーズバーガー買ってきた!!!BBQ味のポテトもあるよ!!」


 ニヤニヤを堪え切れていない??

 だってポテト食べたいもん!!!

 いたしかたねえ!!レイちゃんを部屋へ招こう!!!


 そっとドアの鍵を解く。


「レイちゃん愛してる」

「綾子!1週間ぶり!会いたかったぞー!」


 こんな感じで一週間に1度レイちゃんは会いに来てくれる。

 もうレイちゃんしゅきしゅき!!


 レイちゃんとは話をするだけ。


 学校で誰と誰が付き合ってる~とか、あの先生がやらかしてクビになった~とか。

 なんでも最近、学食が電子マネー対応して学生証でピッてやるだけでいいらしい。

 料金は親に請求が行くらしい。食いしん坊な男の子とか私とかヤバいね???

 まあ私は行けないんだけど……


 そんな他愛もない話をしている。


 あの人の話はしない。ほぼタブーといっていい……

 こんなにも私を気遣ってくれる友人に恵まれているのに、私はなんてクズなんだ…。

 ネガティブもネガティブ負の連鎖。多分わたしもうダメ……!

 どう生きていけばいいのか未来を想像できない…でも、ちょっとはさ…前に進みたいから。


「あのさ、レイちゃん、出来たらでいいんだけど...私をおんぶして外に……」


と言いかけた時、レイちゃんが被せる


「まって綾子、なんか変な音しない?外じゃない?なんか気持ち悪い感じの!なんかザワザワする!」


 うん、なんか聴こえる。

 気持ちわるい

 ザワザワするような肌がヒリヒリするような、風邪ひいた時の様な、そんな気持ち悪い感じ。

 風邪ひいちゃった?


 窓の外を見るとソレは燃える様に、羽ばたくように光を放っていた。


 女の子??なんか飛んでない?

 この女の子どこかでみたことあるような?あれ?誰だっけ?


 って、こっち向かってきてない?めっちゃ熱そうなんだけど?あれ?やばばば!!


 あ、私、死ぬ?


 何も出来ないまま私たちは光と熱にのみこまれた。


 でもね死んだ~と思ったら気づけばレイちゃんとなんか野原?にいた。


 どこ!?


 澄んだ空気、心地よい風、暑くも寒くもない気温、地平線まで続く草原と多少の木。

 日本のどこかの?田舎?とは思ったけど、街道のような場所。


 「どこ?ここ……」


 寝間着、裸足だけど外に出れたね…。

 



「わたしは篠村綾子17歳!!ちょっとワケあってね!高校休学中!!なんと!一歩も外に出れなかった!!でもね!!わたし!!今外に出てるよ~!!すごくねーーーー!!??わたし外いるよ!!すげえええええええええええ!!!!!!どこここ!!!?」


「どうした?綾子……」


 あ、少し現実に脳が追い付かず脳がバグってアドレナリンなりドーパミンを放出したのか大声を出してしまっていた。

 そもそも現実?


 あと足痛え…、裸足だからね。

 痛覚はあるし夢ではないのだろうか?


「すげえ!綾子、どこだろね!?此処!なんか小さい恐竜みたいなのいる!!2足歩行だよ2足歩行!!何アレ!何アレ!首輪付けてるよ!地球じゃないよね此処!!もぐもぐ。異世界?別の惑星?パラレルワールド、いや、でも……ましゃか……!?もぐもぐ」


 レイちゃん、ハンバーガーもぐもぐしてはしゃいでたと思ったらなんかぶつぶつ言い始めた。

 二足歩行する恐竜をすごく小さくした感じの動物がとっとっと音を立て歩いている。

 地球じゃないよね?それとも恐竜時代の地球???

 しかしなにか可愛いいねこの恐竜みたいな子。


 膝下くらいまでの大きさなんだけど、その恐竜(仮)が近づいてきてなにかみてる。


 あ、手に持ってるこれか。


「ハンバーガー欲しいの?君?」


 食べさしても大丈夫かな?犬とかだと葱がダメとかあったと思うけど食べれたらいきなり死んだりしない?私はハンバーガー(チーズがついてない方)を差し出す。

 恐る恐る一口食べたと思ったらすぐ食べちゃった!もしゃもしゃって感じで!

 かわいい!!


「美味しかった?」

 キュオーって鳴いた。

 笑顔っぽい?言葉わかるの?

 さっきからもうね、うずうずしてるんだけどさ我慢できずつい頭を撫でてみた!!


 すっごい気持ち様さそうにしている。

 可愛い!!

 

 あれ?この子の首輪が光った...と思ったら「じゃあね!」と踵を返すようにして走り去ってしまった。

 もう少し触りたかったのに…。


 あ…うう足痛い、小さい石が結構あるから裸足のままじゃキツイなあ…。


「レイちゃん、足痛くない?大丈夫?」

「あ!私、内履きあるよ!洗おうと思ってて持ち帰ってたんだよ。綾子履きなよ!」

「いや、でもレイちゃんのでしょ……」


 正直めちゃくちゃそれ履きたい。

 でも流石の私も人のはね……


「私、ジムいく時のシューズもカバン入れてたからそっち履く」


 え?いいの?じゃあ、へへ、借りちゃお


「ありがとう!」


 久々に靴を履いた。

 やべべ……うまく歩けない……


「綾子大丈夫?まあ慣れていこうよ。」

「やっと外出れたし私、がんばる!」

「うん、いいこいいこ」

 レイちゃんが私の頭を撫でる。

 すぐそうやって子供扱いして~!!もっと撫でろ!!


 って、キャッキャしてたんだけどね。



「で、まじで此処どこ……?」


「どこだろね……、レイちゃんさっきぶつぶつ言ってったけど異世界とか違う惑星?」


「違う惑星だとしてもすごくね?ここまで違和感なく呼吸出来て動ける重力がある惑星だよ!?あとは異世界転移とか、過去の古代地球とかその辺?って線もある?いやでもなあ。」


 レイちゃんその手のオタクだからなあ。

 天文オタク+文学オタクでラベも含む。

 私とママもレイちゃんとよく一緒に山に登って星は見てたなあ。

 でも異世界?異世界で生きていける?帰りたいし正直、魔物の類とかいるとすぐ死にそうじゃない?


 ダメダメ、フラグはノーサンキュー!!


「異世界パターンなら神様とかがスキルとか旅の支度とかしてくれないの?」


 私も気を紛らわす為にレイちゃんから本借りたりWEB小説読んでたし知ってるよ!


「うーんどうなんだろう、そもそも神ってなんだろう、でも試してみるか」

「レイちゃんまじすか……」

 あれやるの?


「まじまじ、ステータス!オープン!」

 うわっ、マジでやるすんか……

 まあモノは試しだよね

 レイちゃん凄い笑顔!楽しそう!


 何も出ないね……

 レイちゃん顔真っ赤な上に泣きそうな顔してる。


 私はそっと目を逸らした。


 微妙~~な空気と間を置いて私達は我に返る。


「綾子~、これからどうする…?」

「ねえ~、どうしよっか」


 割と結構やばくね……?

 私は寝間着だよ。

 レイちゃんは学校のブレザーだよ。

 私特にやばくね……?

 

 寝間着とは呼んでるけど所謂、上下セットのスウェットだよ……。

 唐突過ぎる展開に「考えなければいけないこと」から目を逸らしている状態である。

 家に元の世界まで帰れるのか?とかさ……

 というか帰りたい


 ダメだダメだ!考えろ綾子!!


 帰れないとしても、当分どう過ごすとかさ、食料とかさ。

 あと寝床、お布団……

 サバイバル…?むりむりむり。

 そんな数分前まで引きこもってた私が無理でしょ。

 平和な日本で暮らしてきた女子だよ?無理でしょ。

 とも言ってはいられず、一応状況は整理してみようかな。


 レイちゃんは自分のカバン、私はハンバーガー入れた袋持ってたから靴もあるし装備と食料はバッチしだね???今日1日もしく節約すれば2-3日は持つてとこかな。


 状況としてかなり不味い。詰んでない…?

 そもそも人いるの?


 レイちゃん曰く、馬車とか頻繁に通ってるのか今いるのは街道みたいなところだろうとのこと。

 あ、確かに真ん中にだけ草が残ってるね。これ車じゃない?馬車のタイヤ?ってそんな幅広くないよね?

 どうなんだろう?あまりよくわかってないし。


「レイちゃん、セオリー通りなら、人がいて町とかあるならそのブレザー売って身なり整えて、あとは?あとは?」


 私が言ってるのは所謂創作された小説上のセオリーである。


「そうだよねえ、セオリーなら文明は中世レベルでこのブレザーが上等なもので高く売れる。そうなんだけど言葉通じないよね…きっとステータスも出ないし、なんかこう【称号:異世界人】みたいなの出てほしいよね、残念だ、ああ残念だ!」


「そっか…」


 まあ、でも現実的に考えるとそういう超常パワーあると便利そうだよね。

 いきなりこんな場所に来たんだ、なんかあってくれ…!


 わたしもやってみよ


「ス、ステータス?オープン?」(ボソ)


 わ、なんか出た……!?

 ステータス???あれ??漢字???


 ちょっと文字が私達のいた地球のそれとは違うし文字が訛ってる?感じだけど


 多分、「管理者?モード」って書いてると思う。


「レイちゃん!なんか出た」


 レイちゃん不思議そうな顔してる。

 視えないの?


「私の後ろから見てみて」

「あ!後ろにいったらなんか見えたよ!」

「管理者モードって書いてない?」

「うん書いてる、ずるい!わたしでない!ずるい!なんで!!ずるい!!」


 いや、知らねえよ。


 ログインIDってのは読めるけどなんて読むんだろう…マーニア?アーニア?…フォン、なんとか?読めない…。

 パスワード履歴に残ってるけど大丈夫…?ログインしてもいい?


 とりあえずポチポチ押してみるか。

 こういうのはレイちゃんより私のが得意よね。


 やべえ、これ多分日本語なんだけど全然読めない……


 レイちゃん「日本のパラレルワールド説もあるし、未来説もあるね!」って楽しそうにしてる。


 任意の対象にスキルをセットって書いてる。

 まじで異世界っぽくない?いや未来???私達タイムリープしちゃった??

 これからどうなっちゃうの~??


 細かい設定はよくわかんないけど魔法の杖っぽいアイコンと剣っぽいアイコンであとはタップしてレイちゃんに向けてドラッグ&ドロップすればよいっぽい…多分。


「レイちゃんなんかスキル付与できるっぽいよ?やる……?」

「やるやる~!!やってやって!!」


 とりあえずレイちゃんにドラッグ&ドロップ

 どうなるんだろう。お、Successって出た!これは読めた。


「レイちゃんなんか変わった?こっちはSuccessって書いてるよ」

「ステータスオープン!!」


 いい笑顔してるねえレイちゃん!!

 と思ってたらレイちゃんすごい真顔なんですよね……

 ん?どうしたの?すごいヤバいスキルだった???


「綾子、なにも出ないよ……」


 まじか……悲しいね。

 ふと管理ウインドウを改めてみるとログアウトされてた…。


 あ、ログインできねえ!!パスワード変えられてる!!

 あ、失敗しすぎてロックされちゃった。

 まあ不正ログインは私だしごめんね…マーニア?アーニアさん??


 魂核認証???って書いてるのがあって手をかざして指紋認証とか静脈認証的なアレ???

 読めないからとりあえず手をかざして……!あれ?ログインできた。

 あ、でもまた叩きだされちゃった。

 あと魂核認証?のとこも消えちゃった。

 私はもう管理者(不正)にはなれないみたいだ……

 でもね、管理者ポータルは普通に念じると出てくるの。あと消せる。


 なにこれ?


「レイちゃん不正ログインなのかもうログインできないっぽい……」

「そっか~便利そうだったんだけどねえ~」


 残念そうなレイちゃん、そうは言いつつも木の枝を剣の様に構えている。

 一応レイちゃん家、剣術家?の家だしね。


 まあこんな場所に来ちゃったし色々試した方がいいよね。


 レイちゃんがたまに傘振り回して必殺技みたいなの叫んでたの何回もみてるし特段なんとも思ってないよ!!本当だよ!


 楽しそうなレイちゃん!!こんな状況だからこそ私はほっこりした。


 スキルちゃんと付与されてたら使えそうだよね。

 試さなきゃ損だよ。

 痛い子なんて思ってない!本当だよ!


「スキルあってほしい……なっ!!」


 レイちゃんが木の枝を一振り。

 綺麗。

 さすがは剣術家の家の子!様になってる。


 あれ?結構離れてる道端の太めの木がね、ズルっとズレて切り倒された…。


 すごくね?レイちゃん自力?スキル?

 レイちゃん嬉しそうにニヤニヤしてる。

 スキルなんだね。


「それ木の枝だけど、例え軽くでも私に振らないようにしてね」


 木の枝でそれってちょっとした弾みで私、バラバラになっちゃう。


「うん!気を付ける!」

 すごい嬉しそう!可愛い!


「それで、どうしようっか……」


 再び現実に戻る。


 あ、うん、そうだね、どうしよっか……

 レイちゃん頼みになっちゃうけど何か狩る?

 血抜きってどうやるの…?

 火はどうする?

 レイちゃん魔法みたいなスキルも使えるのかな……?

 寝床とかどうしようか……


 いろいろ状況的にヤバくないですか?


 色々頭が追い付かない


 私達はひとまずワックポテトを食べた。飲み物が欲しい。

 あれ?飲料水ないって状況的にまずいのでは……?


 エンドレス!!現実逃避!!



 茜混じる黄昏、陽は下がり大気を冷やす。

 みんなは家に帰る時間です。


「やばくね?(もしゃもしゃ)」

「やばいね(もしゃもしゃもしゃ)」


 放課後女子二人でワック、ではなく異世界(仮)でひたすらポテトを食べている。

 喉がいい加減に乾いた!しかしお腹は空く!!


 私達、部屋にいた時は夕方だったけど…此処も夕方だね。

 そもそも此処、1日24時間??


 これからすべきことを考えつつも、緊張感などなく……いや、現実から目を逸らしポテトを食べている。

 全サイズ100円セール!!のLサイズが残り4つある。食料はこれだけ。


 レイちゃんと街道の端に肩を並べ立ち左へいくか右へいくかで悩んでた。

 どちらが北で南という法則がいまは分からないし地球のそれとも違うかもしれない。

 だから今座っている自分達からみて右か左。


 首輪つけてた恐竜の子が向かった方向が右だった。

 首輪があるということは飼い竜なのかもしれない。


 どちらに行けばいいかわからないし、このまま座ってても仕方ないよね…。


 不安だけどあの恐竜の子が歩いて行ける距離のところに人里があるのかもしれない。


 判断材料もあまりなく、それがベターと信じて私達はひとまず歩きだす。

 暗くなっちゃうしね。


 歩き出して100mくらいかな?


「レイちゃん……もうダメ、しんどい……」


 いままで引きこもってた私に体力があるはずもなく、ただしんどい。

 でも大丈夫!私はこの機会にがんばらなければ!


 そう思うことで、このワケのわからない状況から目を背けていた。


「綾子、大丈夫?おんぶしよっか?」


 レイちゃん優し過ぎるよ…、あとどのぐらいの距離があるかわからないんだよ?

 しかもレイちゃんと私の身長も大して変わらないしレイちゃん見た目華奢だからね。

 引きこもってし私少し重いんじゃないだろうか……


 肩で息をしながら汗だくだくで歩いている私。

 正直あと100mも歩けるかわからない。


「身体強化的ななにかあればいけるんじゃない?」

 剣と魔法しか付与してなかったと思うけど……


「身体強化的ななにか!!」


 レイちゃんの周りにオーラ?の様な光のようなものが視えて消えた。


「レイちゃん、いま少し光ってたよ」


 ああ、いい笑顔~!嬉しいんだね~!可愛い!


 試しにおんぶされてみる私。

 いや、試しだからね試し。

 そんな厚かましくないし私…。


「綾子~、本当に軽く感じる~リュック背負ったりするより全然楽だよ~」

「ごめんね…レイちゃん、おんぶして進んでください…」

「オッケーオッケーそこは全然甘えて!仕方ないよ!」


 では、お言葉に甘えて……

 スンスン、レイちゃんの髪めちゃめちゃいい匂いがする……スンスン


 私お風呂はいったの2日くらい前だから本当に申し訳なくなってくる。

 女子として本当に終わってね?


「綾子~、少し暗くなってきたし走るよ~」


 え、はい。


 レイちゃんは駆け出だした。


 え?あ、まって待って!速い速い速い…!!


 顔も空気が張り付き、だいぶひどい様になっていると思う。

 蜜柑のネットを被ったようにつぶれているんじゃないかな?

 息できない、息できない。死ぬ~。ひ~!!


 FQHランドのジェットコースターより速いんじゃね?死ぬ死ぬ~!!

 ごめん、と思いながらもレイちゃんの頭を盾に空気抵抗を防ぐ。


 気づけば空は紺色。明らかに夜だった。


 今日は野宿かな…。まじか…帰りたい…。


「綾子!みて!灯り!あれ村じゃない?」


 ホントだ。村だ。寝れる?でもなんだろう不安……

 言葉通じるのかな?


 女の子二人で大丈夫かな?その…えちちち~な要求されない?

 でもレイちゃんいまスキルあるし大丈夫?

 レイちゃんもしもの時は私を助けて…。

 人がいっぱい?いる?ああああああ!!!無理!


 でも、ポテト上げたら泊めてくれるかな?


 根暗陰キャ1000%の私はそんな思考を巡らせていた。


 あれ?あの門の前にいるのって…さっきの恐竜の子だ。

 

 あ、こっち来た。

 

恐竜の子、私達を覚えているのかな?私に向かって鳴いている。

「キュオーキュオー」


 レイちゃんの背から降りると、その子は私に近づき足に頬ずりし始めた。

 なにこの子、やっぱり可愛い


 あ、やめて!臭い嗅がないで!


 この子ね、撫でてみるとパッと見恐竜だからツルツルかゴツゴツかと思いきやスウェードの様なサラサラした爬虫類にしては毛が細かくありそうな触り心地。


 気持ちよさそうに目を閉じてる、可愛い……!この子はこの村の飼い竜かな~?


 レイちゃんも触り始めた。けど…この子の顔は真顔だった。


「この子、綾子に懐いてない?私触っても全然リアクションしてくれないし寂しい…」


 私が触ると、可愛いく鳴いてパッーっと背景に光があるかの様に笑顔になる。

 恐竜って笑うんだね。

 でも表情豊かな動物みるの初めてかも。

 この子の鳴き声が大きいからか、人が来た。


「誰だ!!」


 怖い…大声出さないで…やっぱり私には無理だよ…。

 ってアレ?日本語じゃない?日本??ちょっとイントネーション違うような…気もするけど。


 現れたのは初老のおじさん?と、あと数人の兵士?なんか槍とか持ってるよ…怖い…。

 村をみるとやっばり石造りだったり木造だったりして中世っぽい気もした。


 おじいさんの恰好も物語に出てくるような八分丈のズボンにシャツ、でも実際に見ると結構オシャレかも。


 懐中電灯のようなものを向けられた…。眩しっ!私達の顔は月と同じ方向の為、顔が見えないのだろう。

 あと松明とかじゃないのね。電気あるの?


 少し間を置いてレイちゃんが挨拶を始めた。


「こ、こんばんは!初めまして、旅の者です。た、立ち寄らせて……いただきました。宿などございますでしょうか?雨風しのげる場所でも……おっと自己紹介自己紹介……」


 レイちゃんも緊張しているのか少しどもったり歯切れが悪い。

 まあ見知らぬ世界だし槍、怖いよね。


 レイちゃんが焦りながら自己紹介しようとすると


「貴女様は……!!それにシンリュウ様まで...村の長を務めています!リガルドです!」


 丁寧な挨拶をしてくれた。

 あ、自己紹介しなくちゃ。

 驚いたけど、怖くは無くなった…。


 でも私は声がまったく出ないし、レイちゃんも言葉を発しない。


 え?なに?どういうこと?歓迎されたってこと?シンリュウって誰?


「ようこそいらっしゃいました。」

「いえ、夜分遅くに突然申し訳ございません…ですがシンリュウ?ですか?」


「ええ、そちらの、それは誰もが知っている神獣のお方ですよね?」


 ええ?この子、村の飼い竜じゃないの??

 レイちゃんが小さい声で耳打ちしてくる。


「綾子、よくわからないけど野宿するのも嫌だし話あわせとこうか?」

「う、うん……なんか歓迎されてるみたいだしね……」

「また、お忍びの旅ですか?」


 おじいさんは私に話かけてくる。

 レイちゃんの方を見る。

 私は無理、レイちゃん話して…。


「はい、少し旅をしてまして」


 ワケアリ感を出しレイちゃんが合わせる。


「あ、なるほど旅の内容については探ったりはしませんので...大変失礼いたしました」

「いえいえ、こちらのポテトをどうぞ、よろしければ1本どうぞ」


 BBQ味の粉をかけてシャカシャカしたポテトを村長さんへ差し出す。

 え、レイちゃんそれあげちゃうの…?


「よろしいのですか?よろこんで!!」


 凄く嬉しそうに村長さんが食べる。


「これは凄く美味ですなあ」

「みなさんもよろしければどうぞ」


 槍を持った兵士のみなさんにも差し出す。


 みんな「うまい」「初めての味だ」と口々に語り、美味しそうにしてる。

 ちなみに私も10本くらい鷲掴みして一気に食べた。もしゃもしゃ。


「お酒に合うと思いますのでみなさんでどうぞ」


 レイちゃん残りの残り4セット分全て渡しちゃった……

 いいの?私のは??


「それでお願いがあるのですが、わけあって旅の荷物を落としてしまい私が来ている衣服と旅に必要な物資と交換をお願いしたいのですが…」


 レイちゃんがブレザーを渡す。

 ブレザーもいいの?


「これは凄く上等な品物……旅の物資だけでよろしいのですか?よろしければ私どもに支援させてください!」


 テンプレ通り以上だね…。

 支援してくれるの?なんで…?


「姉が一人暮らしで大した用意も出来ておりませんが本日はそちらへお泊りください。きっと姉も喜びます!」


「いえ突然の訪問大変申し訳ございません。歓迎いただきありがとうございます。」

「いえいえ頭をお上げください」


 レイちゃんよくそんなスラスラ言えるね。

 レイちゃんは一応優等生(笑)だしね。すごい!大人みたい!


 またレイちゃんが耳打ちしてくる。


「綾子、よくわからないけど今日は寝れるよ」

「うん、良かった~」


 村長さんに案内されて村長さんのお姉さんの家に向かう。

 シンリュウもついてくる。可愛い。


 とある家の前にて、あれ?ここだけ2階建てだね。


「少々お待ちいただけますでしょうか。姉を呼んでまいります」

「あ、はい」


「姉さん!聖女様がいらっしゃった!」


 は!?

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