最終話

 映画館の入り口で偶然会い、共に映画を鑑賞、自然の流れとして次は一緒に喫茶店にでも行くのかなと思っていたら、あなたは用事があるからと、駅の方へ一人去っていきました。取り残された私は、つい数十秒前までの幸せな気持ちなどすっかりなくなってしまいます。私にとって今日という日は、あなたと映画を観たことよりも、あなたから取り残されたという事実のほうが重大事項になっています。なぜ、いつもうれしいことよりも悲しいことのほうが印象が強いのでしょうか。沈んでいくのを必死で止めようとしながら、きっとこうして、あなたとの日々はこれからも過ぎていくのだろうと頭のどこかで思うのでした。卒業するまでの間、ずっとです。

 だいたい、「僕ってイマイチなのかな」なんて、あなたはそんなこと私に尋ねるべきではありませんでした。余計なことを言わなければ、私だって余計なことを考えなくて済んだのです。私だって……ひょっとして、もう少し自分に自信を持っていれば、あなたに想いを打ち明けることもできるのでしょうか。今の私は、あなたの反応を予測しては、不安になってしまうのです。「鏡見たことある?」なんて幼稚なことは言わないまでも、「ごめん、君にはもっとふさわしい人がいるよ」などと言いながらも、どこか優越感に満ちた表情で私を一瞥して去って行くあなたの姿を想像しては、立ち止まってしまうのです。

 しかし、私の持っている劣等感をまた、あなたも持っているかもしれないと思うのも事実。でなければ、あのときあなたは、私にあんなことを尋ねはしなかったのではないでしょうか。そして私もまた、本当はあんな風に答えるべきではなかったのでしょう。では、模範解答は何だったのか、それは未だに不明ですが、少なくとも、冗談にして笑い飛ばしたりするべきではなかったことは確かです。私はただ、正直に答えることで、何かが終わってしまうのが怖かったのです。

 望んでいるような形でないにせよ、あなたとのつながりが、疲れ切って何かにすがるしかない今の私を支えてくれていることは事実です。それが壊れてしまったら、一体私はどうなってしまうのか。再び引きこもり生活に戻り、今度こそ二度と出てこられなくなってしまうかもしれません。どうせあと数ヶ月で卒業して別れて、もう二度と会わないことになるなら、それならそれでいい。安穏とした場所で今をぬくぬくと生きているほうが、どれだけましなことでしょう。何の進歩もなく何所へも行けなくても、ずっとこのままでいるのが最もよい方法だと思うしかありません。今の私には、これ以外の道を選ぶ術などないのですから。

 あれほど仲良く毎日を過ごしていた相棒も、やがて私の人生から去りましたが、その不在は今では私の生活になんの損失も及ぼしていません。あなたもやがて、そうやって消えて行くのです。あなたの存在すらも、私にとってはやがてどうでもいいものになるのです。今のままでいれば、何事もないまま終われば。だからこのままがいいのです。

 あの日撮った写真を、きっと私は捨てることもできず、かといって額に入れて飾ることもできず、手帳か何かに挟んだままs保存するのでしょう。そうして、近い未来か遠い未来に、身辺整理などするときに偶然発見してしまい、眉をひそめながら舌打ちするのです。そんなときあなたもまた、部屋の片隅に紛れ、記憶の片隅に置き去りにされたそれを、何かの拍子にうっかり見つけてしまうのでしょうか。それならそれもまた一興。それを見て、ナメクジの這った跡のような違和感を覚えてくれたならば。自分の不甲斐なさを思い出し、後味の悪さをかみしめるときだけ、私の存在はあなたの中に甦るのではないでしょうか。そうして私は、そんなあなたを想像するたびに、してやったりと思うのです。

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手紙 高田 朔実 @urupicha

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