転校生は吸血鬼!?⑩




「痛ッ・・・」


青唯の制服が半袖だったことが災いし、容易く腕を切られてしまう。 男の爪は猛禽類のように長く鋭い。 動脈まで達したということはないが、肉が赤く切り裂かれ血がドバドバと出てくる。 

手で抑えるも血は止まりそうにない。


―――深い傷・・・。

―――止まらないしどうしよう・・・。


一真をチラリと見ると一瞬目が合った。 だがすぐにそらされてしまう。


―――一真、くん・・・?


「一真、彼女の血を見ろ。 美味そうだろう? あんなに真っ赤で鮮やかだ。 騙されたと思って飲んでみなさい」

「うる・・・さい・・・」

「お前は私に勝ちたいんだろう? 血を飲んで覚醒しなければ、私には到底勝てない」

「ッ・・・」


―――一度でも血を飲んだら完全に吸血鬼になる。

―――一真くんは吸血鬼になりたくないから、血を飲めないんだ。

―――・・・でも飲まないと、お父さんには勝てない。

―――それはつまりこのまま血を吸われる被害者が増え続けるということ。

―――血を飲んでお父さんを止めてほしいけど、飲んだら飲んだでお父さんの思惑通りになるんだ・・・。

―――だから一真くんは、あんなに迷って・・・。


だがこのままでは一真はともかくとして、青唯はやられてしまう。 


「一真、どうする?」


青唯は決意し、一真の目の前まで移動した。


「一真くん! 私の血を飲んで」


そう言った時、父がニヤリと笑ったのが視界に入った。 だがそんなものはお構いなしだ。


「一真くん、目を合わせて」

「いや、青唯さん、何を言っているのさ?」

「私は正気だよ」

「どうしてそんな、自分を犠牲にするようなことを・・・」

「一真くんのためなら、いくらでも犠牲になる。 これで他の人たちがもう被害者にならないなら、それに越したことはない」

「でもそしたら、俺が・・・」


吸血鬼になった後にどうなるのかも青唯は分かっていた。


「たとえ一真くんが吸血鬼になったとしても、何も変わらないよ。 一真くんは一真くんだもん」

「・・・え?」

「私はそのままの一真くんを受け入れる」

「・・・血を飲んで父さんを止めることができても、自分自身は止められないのかもしれない」


血の依存は凄まじいと言っていた。 確かにもがき苦しむ一真は見たくない。


――――・・・でも。


「その時は私が責任を取るから」

「どうやって?」

「その話は後で!」


青唯はもう一度一真の目の前まで移動した。 血が流れている腕を差し出す。 赤く流れる血が地面をじわりと染めていく。 吸血鬼に血を吸われれば意識を失うと聞いた。 

だが今なら、流れる血を飲むだけで済む。


「・・・この血を飲んで、世界を救って。 一真くんにしかできないことなの。 お願い」


そう言うと一真は歯を食い縛った。


「ッ、青唯さん、ごめん」


静かに謝ると一真は青唯の腕に口元を当て血を飲んだ。 その瞬間彼の目がギラリと光る。 吸われるだけのため痛みはなく、やはり気絶したりするようなことはなさそうだ。


「父さん!」

「一真、ようやく飲んだか」

「覚悟しろよ!」


二人の戦闘が始まる。 と思ったのだが、一真の父はあっさりと倒された。 父は抵抗どころかその場から一歩も動こうとしなかった。


―――・・・お父さんは、それが本望だったの?

―――血を飲んだ後の覚醒には、既に勝てないと分かっていたの?


父は一真を真の吸血鬼にするために芝居をしたのだと理解した。 だがもちろん青唯の腕から流れる血は本物だ。 

傷の具合から見れば致命傷にはならないだろうが、このまま放っておくのがよくないことは分かっている。 吸血鬼の父からしてみればただの芝居でも、青唯からしてみれば実際に身体が傷付いた現実。 

恐怖もあるし痛みもある。 だが目の前で何の抵抗もなく殴り倒されたのを見た今、このまま一真が父親にトドメを刺そうとするのを見過ごすわけにはいかなかった。



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