転校生は吸血鬼!?⑪




「待って! それ以上は駄目!」

「え、どうして? 吸血鬼という存在なんていらない。 だから父さんを殺して自分も死ぬ。 最善の選択じゃないか」


一真は青唯が思っていた以上のことをやろうとしていた。 まさか自分まで死のうとしているとは思ってもみなかった。


「私は嫌だよ、そんなの。 折角一真くんと出会えたのに、もうお別れなんて・・・」


覚悟を決めていたはずなのだが、青唯の目からは涙が溢れ出た。 それを見て一真は困っている。


「・・・どうして青唯さんが泣くのさ?」

「一真くんには生きてほしいからだよ。 吸血鬼になった一真くんでも私は受け入れられる。 そう言ったじゃん」

「・・・そうだけど、青唯さん以外の人には受け入れられない」

「吸血鬼も人間と一緒だよ!」


青唯は一真の目の前に立った。


「どうして一真くんが死ぬ必要があるの?」

「・・・」

「吸血鬼の命を繋げないって、もう子供を作らないっていうことでしょ? 作らないなら生きてもいいんだよね?」

「そうだけど」

「子供を作らないなら、人を愛す意味がない。 もう人生なんてつまらないから死ぬ。 そういうこと?」


一真は顔をそむけた。


「それとも、血に依存して生活するのが困難になるから?」


一真は小さく頷いた。


「・・・そう」

「それなら、私が責任を取るって」

「青唯さんはさっきそう言ってくれたけど、そこまでは迷惑をかけられない。 既に身体を傷付けてしまったんだ」

「私なら平気だよ?」

「依存度がどこまで酷いのかは、体験したことがないから分からない。 でも父さんを見ている限り、かなり辛いと思う。 だからその思いをする前に消えたいんだ」

「じゃあ、前者は関係がないの?」


前者というのは“人を愛す意味がなくなり生きる意味がなくなったから”というものだ。


「うん、それに関しては大丈夫。 ・・・青唯さん以上に素敵な人には出会えないと思うから」

「ッ・・・」

「俺にとって一番素敵な人が、青唯さんでよかった。 俺はとてもいい人生を送れた」

「なら、私と一緒に生きてよ・・・。 これからもいい人生を送ろう?」

「だから」

「私の血ならいくらでもあげる! だからお願い」

「・・・」


一真は困った表情を見せる。 それはつまり迷っているということだ。 そして、青唯にとってそれはチャンスだった。


「一真くんは、私と一緒に生きたくない?」

「・・・生きたいよ」

「なら私の血を飲んで、生きて」


一真は真剣な表情で青唯を見つめ返す。 赤く輝く瞳が改めて吸血鬼であると証明している。 だがそこに恐怖は感じなかった。 不安気で、寂し気で、どこか壊れてしまいそうなそのような色。


「・・・本当にいいの?」

「もちろんだよ。 それが私の本望だから」

「・・・じゃあ、青唯さんを頼ろうかな。 吸血鬼の俺を受け入れてくれるなら」

「うん!」

「でもお返しはちゃんとするから。 ・・・あと父さんも、生きていてもらうことにする」

「本当!?」

「でも依存の症状が出る前に拘束をしておかないとね。 俺もいつ症状が出るのか分からない。 だから極力外出は控えることになると思う」


血液への依存性がどれ程か青唯には分からなかったが、非常に強いものだとは想像できた。 それに餓死してしまうなら血液の摂取を怠ることはできない。 

おそらく自分は二人に血液を与えることになるのだということも分かっていた。


「分かった。 手伝えることがあったら何でも言ってね、協力するから」

「ありがとう」

「またここへ来てもいい?」

「もちろんだよ」

「定期的にここへ来ることにする。 その時に血をあげるからね」


「うん。 ・・・本当は吸血鬼のまま生きたくなかった。 でもありがとう、俺の命を守ってくれて。 俺にも生きる選択肢を与えてくれて嬉しいよ」



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