転校生は吸血鬼!?⑨
「ほら、そこにいるのは分かっているんだぞ。 諦めて出てこい」
一真の父は威圧感を高めつつも決して自分から動こうとはしない。 だが逃げれば追ってくるだろう。 先程は撒くことができたが、次は逃げ切れるとは限らない。
「ど、どうする・・・?」
「・・・出ようか。 青唯さんには言いたいことを全て話した。 もう隠すことはない」
一真は一歩足を踏み出すと青唯の方を見ながら寂しそうに言った。
「これから俺はみっともない姿になるだろうけど、それでも見ていて」
「うん」
二人は父の前へ姿を現した。 それを見て余裕そうに父は笑う。
「ようやく大人しくなって出てきたか。 一真、お前はもう十五歳を過ぎた。 そろそろ大人の仲間入りをしなければならない」
―――大人・・・。
―――つまり、吸血鬼になれっていうことだよね?
「それは絶対に嫌だ」
「そう言うな。 そこに丁度いい彼女がいるではないか。 その子の血を飲め」
笑みを浮かべながら青唯を眺める視線に背筋がぞわりとした。 同時にチラリと一真を見てしまう。 だが一真は一切視線を動かすことなく父親に言い放った。
「嫌だ! 俺は絶対に人間の血を飲まない。 吸血鬼にはならない!」
「お前はまだ血の美味さを知らないからそんなことが言えるんだ。 その彼女の血は美味いぞ? 私が一度襲った相手だ、保証はする」
「・・・ッ」
あの夜のことが思い出される。 血を吸われた前後の記憶はないが、追われた恐怖だけは心に焼き付いていた。 同時に自分の血を飲まれたということに生理的な嫌悪感を憶える。
「仕方ないな。 一真、そこをどきなさい。 私も彼女を傷付けるのを手伝ってあげよう」
「止めろ、来るな! 青唯さんには指一本触れさせない!」
「生意気な息子め」
一歩踏み出した父の前に立ちはだかると、父は一真に向かって襲いかかった。 一真は食らう前に青唯を突き飛ばす。
「ッ、一真くん!」
「青唯さんは逃げて!」
「そんな! 一真くんを置いて、それはできないよ!」
一真も父に殴りかかる。 だが父はそれを軽々と避けた。
「くッ・・・」
「一真、どうした? それがお前の力か? 私に勝つにはどうしたらいいのか、分かっているよな?」
「・・・」
「血を飲んで覚醒するしかないんだよ」
体格でも力でも一真は父親に負けている。 それは吸血鬼かハーフかの違いか、分からないが今のままだと待っているのは悪い結果だ。
―――ど、どうしよう・・・!
―――このままだと一真くんが負ける。
―――でも私はどちらを応援すべきなの?
―――お父さんの、吸血鬼を絶滅させたくない気持ちは分かる。
―――でも人として、これ以上被害者は出てほしくない・・・。
―――だから私の答えは・・・ッ!
「一真くん! 頑張って!」
「ッ、うおぉぉぉ!」
一真は青唯の声援を聞くと力強く父親を押し返した。 だがそれは一瞬のことで、振りかぶったパンチを入れるも父にはまるで効いていない。 その隙に父は一真の首を手刀で思い切り打ち据えた。
「ぐッ」
「一真くん!」
一真の意識はあるが、相当効いたのか首の後ろを抑えながら崩れ落ちた。 父は青唯に近付いてくる。
「や、止めて・・・! 来ないで・・・」
そこまできてようやくあの夜のことが脳裏にフラッシュバックした。 恐怖だけではなく、映像として蘇ってくる。
―――・・・ッ!
―――やっぱり私、この人を知っている。
―――この人に本当に襲われていたんだ。
徐々に距離が縮まり覚悟をして目を瞑る。
「止めろー!!」
一真の叫び声が空しく響き、それを意に介することなく男は大きく腕を振りかぶった。
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