転校生は吸血鬼!?⑧




一真はもう一度辺りを確認し直し、話し始める。 どうやら何かを思い出しているように思えた。


「・・・小さい頃、仲のよかった一人の女の子がいたんだ」


一真と少女は仲がよく一緒に遊ぶことが多かったという。 ある日一真の家で遊んでいた時のことだ。



「ねぇ一真くん、トイレ貸して!」

「あぁ、いいよ」


少女が手洗いへと行っている間オーブンを見にいっていた。 一真の趣味は料理である。 というより母がいないため料理担当が一真なのだ。 

オーブンを開けると色よく焼き上がったクッキーが蒸気を立てて現れる。 彼女が来るというのを聞いていて、予め仕掛けておいたものだ。


―――うん、上手く焼けてる。

―――トイレから戻ってくる前に仕上げておこうかな。

―――早く食べさせたいし。


そうして最後の仕上げを始めてから数分。 完成したそれを満足気に眺めながら思う。


―――よし、できた!

―――・・・それにしても、トイレから戻ってくるの遅過ぎるな。


心配になり迎えにいくと、偶然廊下で父と遭遇した。 日中は部屋から出てくることの少ない父の姿に違和感を感じる。


「父さん? そんなところで何をしているの?」


ゆっくりと振り向く父の向こうに、横たわる血まみれの少女がいたのだ。 手洗いに行っていたはずの少女が今は身体を小刻みに震わせ痙攣している。 全身から汗が吹き出し、一真は大きく叫んでいた。


「ッ、父さん! もしかして彼女の血を吸ったのか!? 何をするんだ!」


父をどかし少女に駆け寄る。 彼女の肩を揺さぶった。


「お願いだ、目を覚ましてくれ! おい!」


彼女は最後の力を振り絞るようにして言った。 その言葉を一真はずっと忘れられなかった。


「・・・・・・」



少女の言葉が何かは言わず、一真はそこで話を区切る。 目を瞑り顔を揺らすと寂しそうに笑った。 


「その子は身体が普通の子よりも小さくて、血が足りなくなってそのまま死んでしまった」

「ッ・・・」


青唯は息を飲むことしかできなかった。 もしかしたら自分も同様に、あのまま目覚めなかった可能性もあるのだから。


「若い女性の血が一番美味しいんだって。 特に未成年。 だから青唯さんも父さんの標的となった」

「・・・話してくれてありがとう。 でも、どうして全てを私に話してくれたの?」

「どうしてだろう。 これで終わらせたかったからかな? 青唯さんには全てを話しておきたかった」

「そう・・・」

「父さんは俺に完全な吸血鬼になってほしいらしい。 種族を繋ぐために」

「どうしたら完全な吸血鬼になれるの?」

「人の血を一度でも飲んだらなれる」

「へぇ・・・」


ということは、一真は今まで一度も人の血を飲んだことはないということだ。 半分吸血鬼、というのがどういうことなのかよく分かっていなかったが、ここでようやく理解ができた。 


「血を飲むと覚醒するんだって。 そして血への依存度が高い。 ますます血がほしくなって、止まらなくなる」

「吸血鬼になったら大変になるんだね」

「だけどもう、俺たちのせいで人一人の命も失いたくない。 だから俺の命で終わらせたいんだ」

「血を飲まないと生活はできないの?」

「吸血鬼として生きるには半年に一度は人間の血を飲まないといけないらしい。 飲まなかったら餓死してしまう」

「あ・・・」


半年に一人のペースで、人が貧血で倒れているというのはそういうことなのだろう。 全て一真の父が人の血を吸っていたということだ。


「そろそろ父さんと決着をつけたいんだ。 いつも血を飲みにいこうとする父さんを止めるんだけど、毎回力負けをしちゃって」

「一真くんは半分吸血鬼って言っていたけど、体質は人間のまま?」

「いや、ほとんどが吸血鬼だよ。 だから太陽は苦手だし、聖水・・・。 水も基本駄目なんだ」

「そっか・・・」


詳しいことは分からないが、一真の服装や水筒の理由は分かった。 だがそれならまだ太陽が見える現在、一真の父がここまで追ってくることはないだろう。 そう思っていたその時だった。


「ようやく見つけたぞ」

「「ッ・・・」


一真の後ろから男の声がした。 木で隠れていて全身は見えないが、先程屋敷であった時とは全く違う格好をしている。 全身黒ずくめでこれが外出用の格好なのだろう。 

それなら以前追われた時、目を凝らしてもその姿を確認できなかったことが頷ける。


「そして君のことも思い出した。 二週間前、私が襲った子だな? まぁ、一真がここへ人を連れてきた時点で薄々気付いていたがね」

「父さん・・・」 


一真は青唯を身体で隠すようにし対峙した。 後ろ姿からでも緊張しているのが伝わってくる。 正直、逃げた方がいいのかもしれない。 だが二人を放って逃げる気にはとてもなれなかった。 



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