転校生は吸血鬼!?⑦




青唯の頭の中で男の言葉が反響した。


―――え、待って、吸血鬼って本当に?

―――あの噂は本当だったの?

―――だとしたら私、茜鈴に・・・。


正直なところ、今初めて出会った相手の言葉を信じる根拠はない。 だがそれが真実なのだと何となく理解していた。 “吸血鬼だとしても受け入れられる”

そう思っていたが、やはり現実にそれに直面すると中々頭の整理が追い付かない。


「ちょ、ちょっと待って!」


掴まれている手を振り解きたかったが逆に強く握り返された。


「ここだと父さんにバレる。 安全なところまで付いてきて」


そうして屋敷の近くの林の中へと逃げ込んだ。 一真は青唯を解放し、父が付いてきていないのかを木に隠れながら確認している。 

その背中が先程より大きく見えるのは、吸血鬼だと自身が思っているからなのだろうか。


「・・・ねぇ、一真くんって本当に吸血鬼なの?」

「・・・やっぱり、学校で噂になっていたんだ」

「噂になったのはおそらく今日からだよ」

「そっか。 迂闊だったな・・・」


父が追いかけていないことを確認し終え、振り返ると一真は言った。


「俺は半分人間で、半分吸血鬼の状態なんだ」


―――やっぱり本当だったんだ・・・。

―――ごめん、茜鈴。

―――でも私はそんなに驚かないし、受け入れる覚悟はできている。


本人の口から聞いて、少々安堵していた。 ここで慌てて否定でもされれば余計疑心暗鬼になっていたかもしれない。 ただそうすると今日一日自分に積極的に接触していた理由が気にかかる。 

悪意は感じなかった。 それは今も同じだ。


「じゃあ、私をどうするつもりだったのか聞いてもいい?」


何かあるなら話してほしい。 そう思っていた。


「あ、いや、何も悪いことはしないよ。 さっきつい言ってしまったけど、青唯さんにお詫びをしたかったんだ」

「それは何のお詫びなの?」


聞くと一真は気まずそうな顔をした。


「・・・青唯さんが貧血で倒れたのは、俺の父さんが青唯さんの血を吸ったせいだから」

「・・・え。 でも私、あの時の記憶がほとんどなくて! だから一真くんのお父さんだったのかまでは・・・」

「吸血鬼に血を吸われたら、その前後の記憶がなくなるらしいんだ。 父さんに吸われた人はみんなそう言ってる。 おそらく副作用だと思うんだけど」

「そうなんだ・・・」

「だからせめてお詫びをしようと、あの花畑へ連れてきた。 そこは俺にとって一番気に入っている場所だから」


そう言われ来た道を遠く眺めた。 もう花畑は見えないが、彩り豊かな光景は鮮明に思い出せる。


「あの屋敷は俺の家だから、ここへ来ると父さんと鉢合わせするのは覚悟の上だったんだけどね」

「私以外の人にもこうしてお詫びをしていたの?」

「そう。 被害者になった女性の学校や職場、名前を調べて近付いて。 物凄い貧血で倒れたっていうのは地域のニュースになりやすいから、調べたらすぐに分かるんだ」


一真がそこまでするのはやり過ぎなのではないかと思った。 確かに自分の父が人間に危害を加えたというのは事実なのだろう。 ただ一真自身も吸血鬼であるなら、人間の血を必要としているはずなのだ。


「でも、どうしてそこまでしてくれるの? 一真くんも吸血鬼なんでしょ?」

「俺はもう終わらせようと思っているから」

「終わらせるって何を?」

「吸血鬼はもう、俺と父さんしかいないんだって。 他は全滅した」

「嘘・・・」

「だから“吸血鬼が出た”とかニュースにならないんだ。 吸血鬼がいなさ過ぎて」

「・・・」


吸血鬼なんて存在自体が半信半疑。 以前なら怪談話の類程度に思っていた。 それは今も同様で、現実に吸血鬼であるということを見せてもらわなければ心の底からは信じられない。 

ただ一真が嘘を言っているとも思えない。


「だから父さんは吸血鬼の命を繋いでいこうと思っている。 だけど俺は繋いでいきたくないんだ」

「・・・そう言えば、お母さんはいるの?」

「女性の吸血鬼はそもそもいない」

「そうなの?」

「うん。 だけど子孫を残すために、人間の女性と子供を産んでいる。 ・・・最終的には、吸血鬼だとバレる前に別れないといけないけどね」

「・・・深い事情がありそうだね。 どうしてそんなに吸血鬼を終わらせたいのか、聞いてもいい?」


そう聞くと一真は遠くを見据えながら言った。


「うん。 吸血鬼はいてはいけない存在だからだよ」



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