転校生は吸血鬼!?⑤




「あ、そろそろ戻って次の授業の支度をしないと」


予鈴が鳴れば授業が始まる。 その当たり前のサイクルに従い、自分の席へと戻ることにした。


「うん。 また青唯さんと話せてよかったよ」


青唯が席へ着くと茜鈴が駆け寄ってきた。 話している様子を伺っていたようだ。


「青唯!」

「茜鈴! ね、大丈夫だったでしょ? 一真くんは悪い人じゃないって」

「それでも私は青唯のことが心配で」

「あー、ほら! もう授業が始まるよ!」


続く会話が見つからず、強制終了して茜鈴を自分の席へ返させた。


―――・・・ごめんね、茜鈴。

―――人は見た目だけで判断してはいけない。

―――本当にそう思っただけなの。

―――でももし、本当に一真くんが吸血鬼だったとしても・・・。

―――私なら受け入れられると思うな。


一真への同情もあるが、今は一真と話すことは楽しいと思うようになっていた。 

今朝知り合ったばかりでどうしてこんなに信用しているか分からず、すり寄ってくる犬に餌をやる感じなのだろうかとか考えていた。 


―――犬ではないかな。

―――身体は大きいけど、どこか放っておけない感じがする。


その後は特別何も起きず、放課後を迎えた。 準備を終えバッグを持ち上げると、いつも通り茜鈴がやってくる。


「青唯ー! 帰ろー!」

「うん、待って!」


いつも茜鈴と一緒に帰っている。 どこかにぶらりと遊びに行くこともあれば、そのまま帰ることもある。 だが今日は病み上がりということで遊びに行くことはないだろう。 

それでも久しぶりの下校は何となく気分が弾む。


「ねぇ、青唯さん。 今日一緒に帰れないかな?」


振り返ってみれば一真がそこに立っていた。


「え、今日? あ、えっと・・・」


困っているとドア付近にいた茜鈴が駆け寄ってきた。


「ちょっと! 私の青唯を取らないでくれる? 青唯はアンタのものじゃないの!」

「茜鈴! その言い方は・・・」


正直、今は茜鈴と一緒に帰ろうと思っていた。 だがその剣幕が一真に少々失礼に見え、罪悪感を憶えてしまう。 青唯は本当は茜鈴は心配してくれているだけだと分かっている。 

だが一真の申し訳なさ気な顔を見ていると混乱してしまった。


「うん、いきなりで申し訳ないと思ってる。 でも今日しかないんだ。 青唯さんを誘えるの」

「私はまだ一真くんのこと、認めていないからね!?」


二人の間でバチバチと火花が散っているように見えた。 通常なら茜鈴を優先しただろう。 だが一真の言い草が少しばかり気になっていた。


「茜鈴・・・。 でも、一真くんは今日しかないって言っているし・・・」

「ちょっと青唯! それ本気で言ってるの!? 一緒に帰るっていうことは二人きりなんだからね!? そんなの危な・・・って! 青唯!」


青唯はバッグを持ち一真の腕を引っ張った。 もう勢いに任せてしまえ、といった感じだ。


「茜鈴、ごめん! 明日は絶対に一緒に帰ろう! いつも私のためにありがとうね、茜鈴!」

「青唯ー・・・」


彼女を放って二人で教室を飛び出した。 一真が心配するよう言う。


「茜鈴さん、一人にしてよかったの?」

「うん。 また後で、お詫びの連絡を入れておくよ。 今日しか一緒に帰れないんでしょ?」

「・・・まぁ。 青唯さんを連れていきたいところがあるんだ」

「そうなの? どこ!?」


怪しいとは思いつつも、好奇心が勝っていた。


「それは着いてからのお楽しみ。 少し遠いけど平気かな?」

「もちろんだよ!」

「帰る時はちゃんと人が多いところまで送るから」


つまり今から行くところはあまり人がいない。 そう思うと段々と緊張が高まっていく。 言われた通り結構な距離を歩いているうちに、知らない場所へと差し掛かっていた。 

そのまま更に歩き、立ち止まったところで辺りを見渡す。


―――こんな場所があったんだ、知らなかった・・・。

―――って、大きな屋敷!?」


目の前に見たことのない屋敷が聳えていた。 かなり大きく、通常近寄るような場所ではない。


―――凄く立派・・・。

―――誰か住んでいるのかな?


「もう着くよ」


そう言われやってきたのは屋敷の裏にある広い花畑だった。



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