転校生は吸血鬼!?④
廊下へ引っ張る茜鈴の腕を振り払う。
「茜鈴! 駄目だよ! いくら何でも酷過ぎるよ」
「青唯が優し過ぎるんだよ! 何、また襲われたいの?」
「そんなわけないじゃん! というより、一真くんが私を襲った犯人だなんてまだ決まっていないから!」
「犯人だから青唯に付き纏っているんだよ?」
確かに今朝からの急激な接近を怪しく思っている自分がいる。 だが先程までの茜鈴は、一真との距離を詰めさせようとしていた張本人だ。
「どうして急に一真くんに対する態度を変えるの?」
「青唯が心配だからだよ! 青唯の血はきっと美味しいから! だからまた血を吸うために近付こうとしているんだって!」
「そもそも、一真くんが吸血鬼っていうことすら定かではないんだから」
それを聞いた茜鈴は不満そうな顔をした。
「なら本物の吸血鬼かどうか、試してみる?」
「え、試す? どうやって?」
「吸血鬼が苦手なものを見せるの! 例えば・・・」
指をピンと伸ばし、閃いたかのように言った。
「あ! 十字架とか!」
「でも私、十字架のものなんて持ってないよ。 茜鈴もないよね?」
「うん、だから絵で描くの! 絵でも、一真くんが本物の吸血鬼なら絶対に怯むはずだから!」
「・・・分かった。 いいよ」
考えた挙句そう返事をした。 確かめるのは簡単で、疑惑を払しょくしさえすればいい。 ただそれをすれば一真に変に思われることは間違いない。
それでも友人としての付き合いは茜鈴の方が断然上で、その提案を無下に断ることもできなかった。 やれば諦めるだろう。 そう思いつつ教室へ戻り、早速ノートに十字架の絵を書いていく。
思ったよりもリアルに描け、茜鈴も満足気に頷いていた。
「よし描けた! じゃあ行こうか、茜鈴」
「うん。 この目でちゃんと確かめないとね! 十字架を見せつけてやるんだ、青唯!」
―――大丈夫、落ち着いて。
―――一真くんは絶対に吸血鬼じゃないから!
一真は一人席に座って読書をしていた。 横に並ぶとノートを後ろ手に隠し、声をかける。
「ね、ねぇ。 一真くん」
「ん? 青唯さん、どうしたの?」
「これを見て!」
目の前にバッとノートを突き出した。 彼の表情を見るのが怖く目を瞑ってしまう。 だが何も反応がなさそうだった。
―――あれ・・・?
恐る恐る目を開けてみると、そこには普通に困惑している一真がいた。
「あ、えっと・・・。 これは十字架? 青唯さんが描いたの? 絵、上手いね」
「ッ、あ、ありがとう! 突然変なものを見せてごめんね!」
茜鈴を連れて一真から離れる。 教室の後部まで行くと、二人は顔を寄せ合った。
「ほら! 一真くん吸血鬼じゃないじゃん!」
「おかしいなぁ・・・。 絶対にそうだと思うんだけど・・・」
「でも、これで吸血鬼ではないって証明されたからね?」
「んー・・・」
納得していない茜鈴に背を向けた。
「私、一真くんにもう一度ちゃんと謝ってくるから!」
そう言って一真のもとへ向かう。 彼はまた読書を始めていた。
「一真くん!」
「青唯さん? さっきから様子がおかしいけど、大丈夫?」
「うん、私は平気! あー、その、さっきは本当にごめんね。 茜鈴が急に一真くんのことを避けたりして・・・。 それに私も、すぐに止めることができなくて」
「大丈夫だよ。 青唯さんと茜鈴さんの方こそ大丈夫? ・・・仲直り、した?」
どうやら気にかけてくれていたようだ。
「私たちは平気。 すぐにまたいつもの調子に戻るから」
「そっか。 嫌われなくてよかった」
青唯からしてみれば疑惑は解消され、一真と話すことに問題はなくなった。 特別な行為があるわけではないが、折角のクラスメイトと仲よくしない手はない。
今日一日話してみて、悪い相手でもないと思っていたのだ。
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