第13話 不良だと
(不良だと思っているんだ、やっぱり)(仕方ないか。不良まがいの日ごろの態度では)と、忸(じく)怩(じ)たる思いが湧いてきた。写真で見た断崖絶壁の縁に立たされたような思いに囚われている彼に、貴子が助け船を出した。このままでは、うまく二人の関係が進展していくとは思えない。それでは困るのだ。二人だけのデートをしてくれなくては、貴子が困るのだ。貴子と彼との関係維持が、(この二人にかかっているのよ)と、貴子自身が思っている。そしてまた、いつまでも貴子に甘えていては、(真理子のためにもならない)とも思っている。
「そうね、不良よね。でも、そこらの不良とは違うわよ。真面目な不良ってとこかしら。スネてるのよ、この子。根は真面目なの、私が少し悪のりさせたみたい。だってね、パチンコはやらないし、成人向け映画のエッチな物も見ないし…」と、慌てて彼を弁護した。
「ストップ! そこらでいいよ。何ザンスか、真面目な不良とは」
彼はわざと大げさにおどけてみせた。貴子は失笑したが、真理子は笑わない。なにか言わなければと思う彼だったが、バッテリー上がりの車のように、ただ小さなうなり声が出るだけだった。貴子にしても次の言葉が見つからずに、まだ少女である真理子には岩田の方が良かったかと思えていた。しかし生真面目な岩田では二人の中が発展するとは思えなかった。それよりなにより、真理子が松田さんなら……、と彼を指名したのだ。
やがて照明が落ちて暗くなり映像が天井に映り始めた。まず北極星の位置説明があり、「北東に高く見える北斗七星の杖のカーブをそのままのばすと、東の空にオレンジ色の星が見つかります。これが、アークトゥルスで、うしかい座の星です。そのカーブをさらにのばしていくと、おとめ座の白い星のスピカまでたどれます。この曲線を「春の大曲線」といいます。うしかい座のアークトゥルスと、しし座のデネボラ、おとめ座のスピカを結んでできる大きな三角が「春の大三角」です」。春の星座のナレーションが流れた。しかし真理子の横顔を盗み見する彼の耳には、殆ど入っていない。(ひょっとしてこちらを見てくれるかも)という期待を持つが、いつしかため息だけが漏れた。
天体ショーが終わり、二人はすぐに立ち上がったが、彼は立てなかった。眩しさに目がまだ慣れない。星の瞬きではなく真理子の横顔に目が行っていたために、目を開けられないのだ。
「立たせてて上げて」という貴子の声に促されるように、真理子の手が彼の肩に触れた。一瞬、電気が走った。鼓動が高鳴り、耳に強烈な圧迫が加わった。「だいじょうぶですか」という声さえ、彼の耳には鋭い槍先で突かれたように感じる。大丈夫という声の代わりに手をふって見せて、背もたれをしっかりとつかみながら立ち上がった。
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