第9話 息苦しさを

 息苦しさを感じ始めた彼に「どうしたの、声が裏返ってたわよ。そうそう、ドライブウェイに乗って。わたし、プラネタリウムに行ってみたいから」と、貴子の声が明るく車中に響いた。(どうしてかしら、こんなにポンポンと言葉が出るなんて。啓治さんの前だと、どうしても身構えちゃうのよね。だからかしら、真理子ちゃんを連れ出すのは。一人にさせておけないからなんて言い訳してたけど)。

「お姉さまには聞いてません。そちらのお嬢さまにお聞きしたのですが」

掛け合い漫才みたいだと思いながら、咳払いをした後に声を整えてから、謙譲語を使いながらも声はぞんざいに答えた。

「アラ、失礼しました。どうせわたしは、刺身のつまでございます。お邪魔虫でございますわ」

 軽く受け流す貴子の言葉に、車中に笑い声が起こった。(ありがとう、貴子さん)。声にはしない彼だったが、改めて貴子の機転の早さに舌を巻いた。

「真理子お嬢さま、そこでよろしいですか?」

「はい。まだ行ったことがないですから」

 真理子の蚊の鳴くような声が、身震いしてしまいたいような可愛い声が、彼を包んだ。(もういい。これで帰ることになっても文句は言わない)。


「OK!」と答えるや否や、町の外れにあるさほど高くはない山に作られた金華山ドライブウェイ――金華山の南に瑞龍寺山(通称水道山)があり、西麓の岐阜公園と南麓の岩戸公園を結ぶ山道――に向かって車を走らせた。その山頂を造成し、プラネタリウムが作られている。このドライブウェイは、以前に二、三度走ったことはあるが、プラネタリウムには入ってはいない。山頂の駐車場で一休みしてすぐに下りるだけだった。

                   

 小さな店舗の並ぶ忠節橋通りに入った。路面電車のレールの上を走ると、車の振動が激しく二人の会話を邪魔してしまう。やむなくのろのろと走る車の後ろに付かざるを得ない。彼のイライラする気持ちがクラクションに手を伸ばさせた。

「やめなさいって、それは。お年寄りじゃないの、前の車は。ほんとに短気な子ねえ、あんたは」

 貴子のたしなめる言葉に、だってと反論しかかった彼だが、ルームミラーに映る真理子が貴子に同調するがごとくに頷くのを見て、わかりましたよと速度を緩めた。

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