第8話 交差点での
交差点での信号待ちで、話に興じながら歩く三人グループの十代のファッションに、突然貴子が噛みついた。胴長短足の日本女性にはミニスカートは似合わないという持論を滔(とう)滔(とう)と話し始めた。西洋の女性が似合うのは長い足と細さを持っているからよと、ため息混じりにことばを吐いた。現在(いま)のわたしたちでは哀しすぎるわ。憤懣やる方ないといった貴子の口ぶりに、思わず彼は肩をすぼめた。(自分が着ないからって、そんなに怒らなくても。それとも、本音では着てみたいのか?)。
未来の日本女性なら似合うかもしれないけれどね。諦めの色が入った言葉が口を出たことが普段の貴子には似つかわしくないと、信じられぬ思いだった。(なんだか変だぞ)。そんな疑念に囚われていた彼に、女神が微笑みかけてきた。
「ごめんなさい、お待たせしました」
大きな黒縁メガネをかけた、来月に十六歳になる真理子が横断歩道で車の窓を叩いてくる。ドアを開けてくれと、今にも車に乗り込みそうな気配を見せている。スーパーの駐車場はすぐそこだ。まさか交差点での乗り込みとは考えていなかった彼は、慌てて「駐車場に入るから」と、声をかけた。(せっかちなんだ)と、会社では見せない真理子とは違う一面を知り、得をした気分を味わい嬉しくなる彼だった。
期待通りにスピードが乗ってきた――と彼は思ったのだが、貴子から冷たい言葉が放たれた。
「遅いわね、もっと出ないの!」
「そんなご無体な! これ以上エンジンを回したら、壊れちゃうよ。それとも貴子お姉さまが降りてくれますか? そうしたら軽くなって早く走れるかも」と、悪態をついた。
「言ったわね、このナルシストが」
(真理子ちゃんこんな風に掛け合えたらなあ、打ち解けられるんだよな)そんな思いが彼を襲う。信号待ちに入ったところで、意を決して真理子に声をかけてみた。
「真理子ちゃん、どこか行きたい所ある?」
突然の振りに驚いた真理子からは言葉が出ない。まだ意思疎通がうまくいっていない二人だったんだと、唐突過ぎた声かけを悔やんだが、今さらどうにもできない。自らの失策で暗闇に放り込まれた彼だった。真理子にしても己の無言が、ひまわりの咲き乱れていた野原から一転して空っ風が吹きすさぶ荒廃した地へと変えてしまったことで暗(あん)澹(たん)たる気持ちを抱えていた。しかし急に声をかけてくるから……と逃げ場を求めた。
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