第6話 日曜日、

 日曜日、天気はカラリと晴れ渡った。普段ならば昼近くまで白河夜舟のくせに、少し開けておいたカーテンの隙間から差し込んだ太陽の光で、平日よりも早い七時に目が覚めた。足下の壁に貼ってあるカレンダー写真の大きな鉄砲百合がニッコリと微笑みかけている。「良かったね、楽しんでね」と呼びかけられた気がして、浮き浮きとした気分でベッドから飛び起きた。

 朝食もそこそこに、約束の十時より一時間も早く会社の駐車場に着いた。毎日使っているからと、週末には必ず洗車をしワックスがけもしている車から「早いね」という声が彼に聞こえてきた。苦笑いを見せる彼で「二度塗りすると色が沈みこんできれいですよ」とガソリンスタンドでアドバイスされたことを思いだし、もう一度ワックスがけをすることにした。その後エンジンオイルの確認をして、車内の掃除も念入りにした。少し離れた場所から改めて車を眺めると、確かにグレーの色が沈み込んだ状態になっている。思わず「渋いぜ」と口にする彼だった。

 十時少し前を、最新型の腕時計が指している。彼の自慢の腕時計だ。どうせ買うならやはり良いものをと、セイコー社の高級品を購入した。「どうだい」と見せびらかす彼に対して、眼鏡店で買ったことに対し「どうしてそんなところで」と、会社で散々に馬鹿にされた。


(俺だって○兵が安いということは知っている。だけど……)

「俺が安く買うという事で、小売りに問屋そしてメーカーの全てで利潤を圧迫することになる。そしてそのことで社会全体の利潤が少なくなり、巡り巡ってうちの会社の利益低下を招く。そしてそれは、俺の給料に影響してくる。だから○兵はやめた」と、岩田に言い張った。実のところは、その眼鏡店に美人の店員が居ると噂に聞いたことからなのだが。しかし、噂はやはり噂だ。

「お待たせえ!」という声に、体中を緊張感が走った。すぐにもふり返りたい思いを抑えて、「思ったより早かったね」と、ゆっくりと体を回した。貴子が一人だけで手をふっている。話が違うじゃないかと落胆の色を見せる彼に対して

「心配しないの、真理子ちゃんはお買い物中。お弁当は作ったけど、デザートの果物が欲しいんですって。あそこのスーパーで待っている筈よ、心配ないって」

 と、苦笑いしながら車に乗り込んだ。

「別にそんなこと……」

 と、不機嫌に口を尖らせた。大きな音を立ててドアを閉めて車に乗り込むと、力まかせにギアを入れて発進させた。

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