第12話 お雑煮
普段、私がメインで食事を作っているけれど、妻が料理をしないわけじゃない。で、正月のお雑煮は、妻が担当することになっている。ただ、普段料理をしないためなのか、料理の段取りが悪い。超を付けても良いくらい、段取りが悪い。本人も自覚しているので、指摘すると怒るから何も言わない。何も言わないけれど、正月早々お預けを食らうのもいやなので、仕込みは私がやっておく。
お雑煮といえば、家庭毎、出身地方ごとに味付けや餅の形が違っている物だ。うちの実家……あれは母の味付けだったのか、父の味付けだったのか。どちらも鬼籍に入っている今となっては分からないけれど、四角い餅を焼いた物を、澄んだだし汁にいれていたように思う。
さて、妻の作るお雑煮は、白菜などの野菜と鶏肉を鶏ガラだしで煮込んだものだ。なので、まずは鶏もも肉を切るところから。皮は剥いて外し、肉はできるだけ小さく切り分ける。白菜は、葉っぱの柔らかい部分と堅い部分を切り離し、それぞれ一センチ幅くらいに切る。大根と人参はいちょう切りで。椎茸は、以前薄切りにして冷凍しておいた物を使うので、冷蔵庫で解凍しておく。よし、準備はこれくらいでいいかな? あとは任せた。
元旦。
「鶏ガラスープの素は~?」
「冷蔵庫、ドアポケットのとこ」
「鍋、コレ使っていいんだよね?」
「あぁ、ソレ使って」
「あれ? 長ネギは?」
「(いかん、切り忘れていた)……冷蔵庫に入ってるよ」
「ねぇ、包丁、切れないんだけど」
「こっちの使って。そっちは研いでおくから」
そんなこんなで大騒ぎしながらも、なんとか煮込み始めたようだ。
「お持ち、焼いて~」
「ん。いくつ?」
「ふたつ」
私の分も含めて、四つの切り餅をオーブントースターで焼く。実家にいたときは、年末になると千葉から来ている行商のおばさんから、餅を買って切り分けて使っていたっけ。今も行商のおばさんなんて、いるのかな?
「餅、焼けたよ」
「ここに入れて」
「ほいほい……あっつ、あちあち」
熱々の餅を取り落としそうになりながらも、ぐつぐつとスープが沸き立っている鍋へと入れる。妻の好みに合わせて、お餅が柔らかくなるくらいに煮込む。
「できたよ~」
妻が、どんぶりに入ったお雑煮を食卓に置いた。湯気の中に白っぽい鶏スープと野菜、お餅が浮かんでいる。
「では……いただきます」
「めしあがれ」
いつもとは逆だけど、料理を待つというのもいいもんだ。
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