第13話 海苔の佃煮

 私の実家は、仕事柄季節毎にいろいろな贈答品が届く家だった。子供だったから、カルピス(フルーツカルピスも!)は大歓迎だったけれど、やっぱり海苔やお茶が多かった気がする。お茶は、来客も多かったので問題なかったが、あれだけ大量の海苔を、母はどうやって消費していたのだろうと不思議でならない。


 そして今、私は親戚からお裾分けされた、大量の海苔を前に頭を捻っているのだった。いや、別に海苔はあっても困らない……というか、ありがたいのだが、これだけ大量にあると、消費する前に湿気ってしまうのではないかと。何しろ二人家族だからね。子供がいれば良かったのだろうが。あ、子供のいる友人にお裾分けするか。お裾分けのお裾分け、お裾分け分け?

 それでも限度があるよなぁ。一袋くらいなら、フライパンで温めつつ、ごま油を塗って韓国海苔風にするんだけど、あれもベタベタするからなぁ。


 そうだ、独身時代に作ったアレを久しぶりに作るか。やっぱり実家から大量に海苔をもらった時に作った――海苔の佃煮。海苔の佃煮なんて、買ってくるものだと思っている人もいるだろうけど、意外に簡単にできる。時間は掛かるけど。


 まずは、海苔を賞味期限が近い方から取り出して……。


「なにしてんの?」

「ん、ほら、おばちゃんとこから大量に海苔もらったでしょ? それを佃煮にしようと思って」

「おおー。なんか手伝うことある?」

「とりあえず、ないな。味のリクエストある?」

「甘めにして。で、少し固めがいいかな」

「了解」


 妻と会話をしつつも、海苔を適当な大きさに千切りながらざるに入れていく。このくらいでいいか。久々に作るんで、大量に作って失敗為たら目も当てられない。ざるに入った海苔に水をざっとかけて湿らせておく。しばらく、放置で水を切っておく。


 その間に湯を沸かし、手頃なガラス瓶を煮沸消毒しておく。保存大事。


 十分に湿ってへなへなになった海苔を、鍋にいれて醤油と酒、甘めにという注文があったので、砂糖も少々。鍋を弱火にかけて、ゆっくりと煮ていく。やがて、ぐずぐずになった海苔の表面に、ポコポコと泡が浮かんでは消えていく。まるで、マグマのよう。黒いけど。黒いマグマを菜箸でかき回す。焦がさぬように、ゆるゆると。


 海苔の佃煮といえば、「ごはんですよ」だよなぁ。昔はどこの家庭にもあった気がする。「ごはんですよ」といえば、三木のり平。昭和の大コメディアンだ。今時の子は知らないだろうなぁ。海苔の佃煮、三木のり平……昭和は遠くなりにけりってか。

 そんなことを考えながらも、手は止めない。こげちゃうもん。というか、単純作業を続けていると、思考が転々としちゃうね。


 そのうちに海苔がほぐれて良い感じになった。どうだろう? 少しとって味見する。まだ緩いけど、もう少し甘い方がいいかな?


「ね、味見してみて」

「はいはい……もう少し甘い方が好き」


 うーん、最初にみりんも使っておけば良かったかな。しかたない、砂糖を少し足して、もう少し堅くなるまで火にかける……こんなものかな?

 できあがった佃煮を、消毒した瓶に移して粗熱を取る。これで一週間くらいは持つだろう。


「今日の夕ご飯は、海苔の佃煮付きでーす」

「おー」


 瓶からスプーンで佃煮を小皿に移し、そこからホカホカ炊きたてごはんの上にパイルダーオン。ご飯と一緒にお口の中へイン。


「うま」

「おいしーね」


 もらった海苔はまだあるから、また作ろう……時間のあるときに。

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