第2話 タマネギの味噌汁

「お味噌変えた?」

「ん? 変えたけど?」

「これ嫌い」


 実は、先日安売りしていた味噌なのだ。私としては、別に不味くないのだが、妻のお気には召さなかったようで。だからといって、捨ててしまうような経済的余裕は我が家にはない。


「しばらくコレだよ」

「使い切ったら、新しいのは私が買ってくるから」


 味噌は、通常、七百五十グラムから一キロ単位で売られている。今回の味噌も一キロ。でも、それほど時間を掛けずに使い切る。味噌汁は毎日飲むし、料理にも使うからね。

 とはいえ、味噌が気に入らないとすると、味噌汁は具材で工夫するしかないか。


 次の日。


 味噌汁の具材でいろいろ悩んだのだけれど、結局は定番でいくことにした。我が家の定番は、タマネギとワカメの味噌汁である。血液さらさら~な効果があるとか。

 タマネギは皮を剥き、先端とお尻を切る。そして縦に半分。妻は、先に先端とお尻を切ってから皮を剥くやり方。私としては、皮が付いている状態で包丁を入れることに抵抗があるよ。

 半分に割ったタマネギを、断面を下にしてまな板に置く。まず、横に何回か包丁を入れ、縦に切っていく。薄切りにならない程度の厚み――二、三ミリってとこかな?

 私は具材に歯ごたえがあった方が好きなのだけれど、妻はクタクタに火が通った方が好きなのだ。タマネギの厚みは、夫婦の歩み寄りが生んだ結果。って、そんな大層なものじゃない。


 切ったタマネギを、水を張った鍋にぶち込む。全部じゃないよ、その火の気分で量が変わる。今日は少し多めにしておこうか。『根物は水から葉物は湯から』――タマネギは根菜(根物)に分類されるので、水から茹でる。まぁ、根物とは言っても、じゃなくて鱗茎なんだけどね。ホントに根っこを食べるのは、ゴボウとかサツマイモ。里芋とかレンコン、ジャガイモなんかは地下茎だね。

ワカメは、理研の「ふえるわかめちゃん」。理化学研究所って今は国立研究機関だけれど、戦前は財閥コンツェルンとしていくつかの企業を持っていたんだよねぇ。


 そんなことをボーッと考えているうちに、わかめが戻り始めたので火を付ける。二人分なので、時間はかからない。IKEAで買った三個セットの一番小さな鍋がちょうど良かったんだけど、先日、取っ手部分が錆びて取れたので中くらいの鍋だ。同じくらいのサイズだと、ミルクパンになっちゃうので、なかなか手頃なサイズが見つからない。


 沸騰したら火を細め、ぐつぐつとタマネギに火が通るまで煮る。ほら、彼女はクタクタが好きだから。彼女はクタクタ。「ヒルダはバラバラ」みたいに言ってみた。

 良きところで、顆粒だしを投入。出汁の入れ忘れ、これまでに二、三回ある。で、火を止めて、味噌を溶かし込む。味噌の量は目分量なので、いつもしょっぱいと怒られるが、いや、俺の身体が塩気を求めてるんだよ。でも、怒られるのは嫌なので、ちゃんと味見はするよ。独身時代は味見なんてしなかったけど、食べさせる相手がいるんだから味見は大事。うん、ちょうど良い。


「ただいま」


 ちょっと味噌汁、作るタイミングが早すぎたか。妻が帰宅した頃にはぬるくなっていた。味噌汁ぬるいと怒るんだよねぇ。温め直す……沸騰させないことが大事……今!

 あつあつの汁を椀に盛って、食卓へ。


「今度、豚汁作って」

「へいへい」


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