我が家の食卓
水乃流
第1話 飯を炊く
そもそもウチは、私がフリーランスで家にいる時間が長いことに加え、妻も料理はするのだが恐ろしく段取りが悪いので時間が掛かるという欠点がある。もし、妻が料理担当になると、帰宅してから作り始めたとして、晩ご飯が遅くなってしまう。その点、私がやれば帰宅時間に合わせて調理することも可能だ。
そんなわけで、ウチでは料理は私、洗濯は妻というように、結婚当初から家事分担がなされたのだった。
ただ、問題がなかったわけでもない。
やはり、違う環境で育ってきた二人が一緒に暮らすのだから、いろいろと齟齬も出る。料理に関して言えば、やはり味付けとか好き嫌いとかね。
私は、高校時代に母を亡くしているので、『母の味』に余り拘りはない。むしろその頃から父親と私が料理担当だったので、味などと呼べるような繊細なものではなかったように思う。また、好き嫌いもほとんどない。
一方、結婚してから判ったが、妻は好き嫌いが多い。その上、結婚して十年くらい経ってから判ったのだが、グルテンアレルギーなので小麦を使った料理はNGなのだ。料理を作る側にとって、これは大問題だ。世の中には、卵アレルギーとか大豆アレルギーとかで苦労している人たちがたくさんいて、その方たちとは比べるべくもないが、私も日々料理に悩むこととなった。
さて、好き嫌いやアレルギー以外にも、妻にはこだわりがあった。「おいしいご飯がたべたい」というものだ。ご飯、つまりお米である。米の品種に関しては経済状況も鑑み、あまり高いものは買えないけれど、たまに少しお高めの品種にしたりする。今、妻の中でトップランクの品種は、北海道の『ななつぼし』である。同じ北海道の『ゆめぴりか』も美味しい。流通量が増えたためか、少しずつ安くなっているのはうれしい。
そして、炊き方だ。結婚当初は、私が独身時代に使っていた炊飯器を使っていたが、どこから聴いてきたのか「土鍋でご飯を炊くとおいしい」と言い出した。普通の(鍋料理で使うような)土鍋だと、火加減の調節が大変なので、ネットで調べて火加減の調節がいらない、『かまどさん』という炊飯用の土鍋を購入した。それからもう十年以上、それを愛用している。なんでも、嫁いできたお嫁さんのために、考案した製品なんだとか。
今日も、夕飯の準備を始めよう。
まずは米を研ぐ。ボウルに二合分の白米を入れて、一度、ざっと水にさらす。この時点ではかき回さない。小さなゴミを流すだけだ。水を切ったら、再び水を入れる。水はあまり多めには入れない。右に二十回くらい、反対に二十回くらい手で捏ねるように研ぐ。最近のお米は昔と違ってあまり研がなくても糠が取れる。計四十回でも多いくらいで、本当は二十五回くらいで十分なのだそうだが、昔からの癖でつい多めにやってしまう。
研いだら水を足し、水を切る。とぎ汁は、別の鍋に入れて取っておく。ある程度水が透明になるまで、水で流す工程を繰り返すのだが、これもやり過ぎてはいけない。特に、おにぎりを握る場合には、お米の風味を残すために水切りは一、二回で良い。
水を切った米をザルにあけ、土鍋に入れる。二合のお米に対し、水は四百ミリリットル。昔は、新米かどうかで水加減を変えたりしたものだが、その必要はない。随分と楽になったものだ。ただし、今日は暑いので、氷を二、三個入れる。炊くときに温度差があった方が、美味しく炊けるのだ。
水を入れたら、二十分放置。この間に米が水を含んでいく。『浸水』という奴だ。炊飯器ならスイッチを押すだけだけれど、土鍋にはこうした手間もかかる。
二十分経過したら、十三~十五分、中火で加熱する。タイマーはいつも十三分で設定している。時々忘れてエラい目に遭ったりする。
時間経過を知らせるタイマーを止めたら、土鍋を見る。蓋の穴から白い蒸気が勢いよく飛び出している。よしよし。オコゲが欲しい時には、ここで強火にして十秒、そしてガスを止める。ガスを止めた後は、蒸らし時間だ。二十分ほど放置。この間に、味噌汁と主菜を作る。今日はシンプルに焼き魚。鰺の開きを、フライパンに敷いたアルミホイルの上に載せて焼く。
そういえば、魚を焼くのにグリルを使わなくなったなぁ。主に後片付けが面倒だからなんだけど。本当は、ガス台も買い換える必要があるんだけど、先日給湯器交換したばかりなのでね。あぁ、大きな仕事来ないかな。フリーランスは大変なんだよ。
魚を焼きながら、大根おろしを作る。ついでに輪切りにした大根を、とぎ汁で下ゆでする。これはあとでだしと醤油で煮て、明日のおかずにしよう。
「ただいま~お腹減った~」
ご飯が炊けたタイミングで、妻が帰宅した。
「ちょうどできたとこ。すぐ食べる?」
「うん」
土鍋を、ガス台から降ろす。ちゃんとミトン使いますよぉ、ズボラで何度か指先火傷しているからね。そのまま蓋を取ると中蓋か、その中蓋を外すと白いお米が見える。あぁ、良かった、美味しそうにできている。火加減の調整がいらないといっても、年に何回かは失敗することもある。チャーハンとか雑炊とかにしちゃうんだけど。
しゃもじでお米をかき混ぜたら、半分は冷凍して、残りを妻と私のお茶碗に盛り付ける。つまり一人半合。
「できたよ~」
おかずとご飯を食卓に並べ、妻を呼ぶ。部屋着に着替えた妻が、席に着いたら「いただきます」。
今日もこうして、二人で夕飯を食べる。これが、我が家の食卓。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます