-015

 視線を鋭く尖らせて、霊華の次の一言を待つ響。

 しかし一方の霊華は全く状況が分からないように、きょとんと、彼の鋭い眼を見詰め返している。

「えっ――、目的って?」

「とぼけるんじゃない。何の目的も無く犯罪者の俺を家にかくまって、その上見逃してやろうだなんて虫の良い話あるはずねぇだろ……!」

 そこにきてやっと合点がいったように、霊華はポンと手を叩く。

「あぁ、成程。そういうことね。」

「……お前、まさか本当に何も考えず行動してたのか?」

「そんなわけないでしょ。一応命を助けてもらったから、それぐらい見逃してあげるべきだと思ってただけ……っていうのは後付けで、ホントは、その通り何も考えてなかっただけね。でも、それなら何の見返りも無しに私を助けようとしたアナタの方が大概じゃない?」

「…………いや。犯罪者の俺が善行積んだって悪い事にはならんだろ。一般人のお前が善意で行動してるから君が悪いんだ。」

「今考えるってことは、アナタも何も考えてなかったのね。言ってることもよく分からないし。……でも、うん。」

 霊華は一つ頷いて、まるで突飛な悪戯を思いついた子供の様に、楽し気な笑みを向ける。

「そういうことなら、一つお願いをさせてもらおうかしら――――」

 クオーツをポケットに仕舞うと、ひょいと机から飛び降りて机の上のスケッチブックを手に取る。そして適当に開いたページを指先に挟んでビリビリと小さく引き裂いて――定規も何も使っていないのにやけに綺麗な切り口だった――ペンを取って何やら文字を殴り書いた。

「何だこれ? 数字か?」

 見れば、紙には十桁の数字が書かれている。全く規則性の無い数字の羅列だが、最初の四文字の並びには見覚えがある。確か電話番号の形式の一つだったはずだ。

「私の連絡先。」

「は? 何でお前の連絡先なんか。」

「その電話番号に掛けると私の電話に掛かるから、イナちゃん絡みのことで何かあったら教えて頂戴。すぐに駆けつけるから。」

「コイツ絡みのことって……、例えば?」

「何でもいいわ。アナタの判断に任せる。」

「……それだけか?」

「えぇ、それだけ。」

「マジで?」

「私が嘘をついて何の得があるの?」

「いや、それこそお前にとって何の得があるのか分からないから訊いてるんだが。」

 霊華は顎に手を当てて少し考え込む。

「そうね。詳しくは言えないけど、私魔法生物と少し因縁があって、個人的に色々調べてるのよ。私はアナタのことについて黙っておく代わりに、アナタから天使の情報を伝えてもらう。秘密も共有することになるし、利害関係も一致してるでしょ。これで満足?」

「まぁ……、いいか。納得しといてやるよ。」

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