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「響君、私の方からも一つ質問して良いかしら。」とそこで、響の思考を遮るように霊華が手を挙げる。

「お前が俺に? 悪いが俺は今回のことについてはなーんにも知らんぞ。」

「私が訊きたいのは天使のこととは別件なの。私も響君の質問に答えてあげたんだから、私だっていいでしょ。」

 そう言われると、確かに自分の聞きたいことだけ答えてもらうというのは不義理だ。仕方なく響は思考を中断し、彼女の方へ向き直る。

「いいぜ。俺に答えられることなら、答えてやるよ。」

「良かった。それじゃ――――」

 霊華はそう言って右手を外套のポケットの中に入れ、

「これ、アナタの持ってたバッグから出てきたんだけど、もしかしてアナタのもの?」

 そう言って引っ張り出した右手には、ガラスのように透明な薄い板が一枚握られていた。ガラス板は、勢いを取り戻したランプの灯を受けて、異様な輝きを周囲に放出している。目を凝らしてみれば、その内部に何千本もの直線的で細い溝のようなものが刻まれており、それらが光を拡散しているのが確認できるだろう。

 響はそのガラス板を見た瞬間に顔を曇らせる――――が、すぐに何でもないように言い放つ。

「知らないな。いつの間にか紛れ込んだんじゃないか。」

「いいえ。アナタのバッグには、同じものが沢山入っていた。紛れ込んだなんてレベルじゃない。」

「じゃあ、誰か他の人の持ち物と間違えたんだろう。あれだけの混乱なら誰かのバッグが転がってても可怪しくない。」

「残念だけど、あのバッグはしっかりアナタの身体に装着されてたわ。ベルトでね。――――何か他にましな言い訳はある?」

 霊華は穏やかに、しかしバッサリと間に合わせの言い訳を斬り捨ててゆく。響は逃れる術無すべなしと苦笑し、おどけるように話を逸らした。

「第一、そんなガラス板が見つかったからって何なんだ? 別に大したことじゃないだろう。」

「これがただのガラスの塊ならね。」

「違うのか……?」

 あくまで白を切るつもりの響。

 霊華は大きく溜息を吐くと、面倒そうに腰に手を当てて机の上から響を見下ろす。

「はぁ……、まぁ、いいわ。本当に知らない可能性もあるし、説明してあげる。」

 机の上から身を乗り出して、彼女は語り始める。

「このクオーツは国が推し進めている、文化保存プロジェクトの一環として作られた記録媒体。レーザーで内部に傷をつけることによって、長期間、そして大容量のデータ保存が可能になっている。中には歴史的に価値の高い資料や、国家機密が内蔵されていることすらあるの。決して、ただのガラスじゃないわ。」

「…………へぇ。随分と物知りなんだな。」

 皮肉交じりの響の言葉に、勝ち誇ったような微笑を湛えて霊華は返す。

「このクオーツは〝ミームの巨塔〟で、厳重な警備の下に保管されているはず。どうやって盗み出したか知らないけど、許される罪じゃないわよ。」

 ここまでバレているのなら、最早しらばっくれることにも意味はない。万事休すだった。

 ――――しかし、まだ牢獄行きを受け入れるのは早そうだ。

「そこまで分かってるんなら、なんでこんなお喋りをしてるんだ。さっさと公安にでも突き出せばいいだろ。――――何が目的だ。」

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