-009
「到底受け入れられる話じゃねぇけどな。あの後俺はどうなったんだ――――、俺が寝てる間に何があった――――」
響は思うように身体を前のめりにしつつ、責めるように一気に捲し立てる。
「はい、ストップ。聞きたいことはお互い色々あると思うけど、一旦落ち着きなさい。」
霊華は右手を前に差し出して熱が入りかけた彼を制止する。そして持っていたコンビニの袋に手を突っ込むと、中からペットボトルを取り出して、響に投げつける。危なげなくそれを空中でキャッチしてラベルを見ると、どうやらお茶らしい。
「欲しかったでしょ?」
「――――あぁ。助かる。」
様々な〝何故〟が頭の中で沸騰して暴発寸前な響だったが、それ以上に喉の渇きが限界を突破していた。響は早速蓋を開くと、そのままペットボトルを豪快に傾けて貪るように中身を全て飲み干してしまう。胃に押し込まれた水分は速やかに血管を巡り、カラカラに干からびた細胞の渇きを満たしてゆく。すると急に頭の中の霞が晴れるように意識がハッキリしてくることに気付く。人体の六割が水分であるというのは伊達ではないらしい。
その間に、霊華はイナに手持ちのコンビニ袋を預け、
「イナちゃん、ちゃんと見張っててくれてありがとう。もう大丈夫よ。これ、お腹空いてたら袋の中のパンとか食べててもいいから。」
「了解しました。では、お言葉に甘えて。」
イナは霊華から袋を受け取ると、まるでそうするのがさも自然であるかのように響の横にストンと腰を下ろして、肩に首を預けてくる。
ペットボトルを片手に持った響は何かの間違いかと思い、彼女とは逆方向に動いて、身を引き離す。
すると、彼女もまた同じ距離だけ動いて身を寄せてきた。
「……離れろ。暑苦しい。」
「嫌です。」
「お前さ、さっきから距離感のとり方間違えてないか。」
「天使的に答えさせて頂くならば、こうしておく限り私は自分の首で頭を支えなくても良いので、最も効率的な座り方と言えるでしょう。」
「お前の理論にはそれによって一人分の脳味噌を支えなければならない俺の肩の負担の計算が抜けてるんだが。」
「誤差です。気にしないでください。」
――――天使的な計算というのは随分恣意的らしい。
「そりゃお前にとっては誤差だろ。貸してるのは俺の肩なんだから。」
響は静かにペットボトルのキャップを締めると、まるで母犬が子の
イナは不服そうに眼を細めて何事か反論しようとしたが、諦めてふいとそっぽを向いてしまった。そしてその眼で、膝に置いたコンビニ袋を興味深そうに覗き込む。中に入っているのは何処にでも売っている普通の菓子パン類で、特に面白いものでもなかった。しかし、どうも彼女にとっては目新しいらしく、心なしか眼がキラキラと輝いている――あくまで当社比だが――ように見えた。
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