-004
響は一つ大きく深呼吸をし、眼前にある少女の青い目と見詰めあう。
「じゃあ、とりあえずこれだけ聞かせろよ。お前は、敵なのか、味方なのか。どっちなんだ。」
すると少女はすっとベッドの上に居住まいを正して、口を開いた。
「マスターが私を味方と思うか
「…………よく分かんねぇけど、味方ってことでいいんだな。」
「はい。しかし、仮に私がマスターの敵であったとして、素直にそれを言い渡すことはあり得ないでしょうから、その問いはそもそも無意味でしょう。」
――――こいつは一々人を小馬鹿にしなければ話を進められないのだろうか。
色々言いたいことは大量にあったが、一々文句を付けていてはとても話が進まない。言葉をグッと飲み込んで、響は話を続ける。
「待て。質問の答えもかなり気になるんだが、まずそのマスターってのは何なんだ? 何時俺がお前の
「マスターはマスターです。違いますか。」
「答えになってねぇな。俺がそれを認めてないって言ってるんだが。」
少女は変わらず抑揚のない調子で――――、全く、何でもないように言った。
「事実ですから。現在、私の心はマスターの身体によって保たれているのです。自律的な目的作成能力を体内に宿していても、心の所在が相手に依存しているのならば、それは立派な主従関係と言えるのではないでしょうか。」
「――――はい?」
響は唖然とした。
既に彼女の言葉の半分ほどは分かっていなかったが、ここに来て完全に理解不能になってしまったのである。それは確かに良く知っている言葉なのに――――、つまり、日本語の言葉と日本語の文法によって作られた文章であるのに、彼女が発した言葉は何一つ響の頭に入らず、耳を右から左に素通りしていった。
「…………なぁ。そのこましゃくれた言葉遊びは止めてくれないか? 頭痛が痛くなる。」
「申し訳ありません。私は複雑な言い回しが好きなので。
「知ってて言ってる。ツッコミは不要だ。」
「えぇ。それも知ってます。知っていることを知っていて突っ込んだのです。」
――――頭の血管がぶちぎれる音がした。腑の底からありったけの罵詈雑言が込み上げてくるが、持ち得る最大の集中力を以て飲み下す。彼女の調子に合わせていると、ただでさえ頭痛で壊れかけている頭が更におかしくなりそうだった。彼女はあれだ。一を言ったらその一をボコボコに捻じ曲げてから刺し返すタイプだ。決して負けを認めた訳ではない。戦略的撤退である。
「…………まぁ、いい。お前が本当に敵なら、こんな無意味な問答をけしかけてはこないだろ。」
少女は小首を傾げて答える。あくまでも、無害そうな所作である。
「ご理解頂けて喜ばしい限りです。なら、私からも一つお願いがあるのですが宜しいですか。」
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