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 見れば見る程、美しい少女だった。

 顔立ちを一瞥いちべつしても、眼、鼻、唇と、全てのパーツが理想的なバランスを保った、まるでギリシア彫刻の如き端麗たんれいさを誇っている。腰ほどにまで伸びた長髪は大理石の様な純白で、暖色ランプの薄明かりの下、鈍い朱を帯びている。小ぢんまりとした肩はちょっと力を込めたらすぐに折れてしまいそうな位にたおやかであるが、背からすらりと伸びた脚の先まで、一本芯が通ったような力強さを感じさせた。

 そこには、可愛いとか、綺麗とか、色っぽいとか、そういうレベルを超越した、一種畏怖いふすら感じさせるような美しさがあった。

 ――――しかし、顔が良いだけに目立つのが首から下の、である。正確に言えば、服の組み合わせには何も問題が無いのだが、どう考えても、身体に対する服のサイズが全てにおいて大きい。

 羽織はおるように着ている長袖のシャツは首元が小さくはだけ、透き通るような鎖骨の端があらわになってしまっている。その上、袖の方もかなり布が余っていて、指先まですっぽり袖の中に隠れていた。下も同じような感じで、ぶかぶかのジーンズの裾から、色素の薄い爪先だけがひょこんと飛び出している。

 ――――というか、よく考えたら季節感もそこそこに怪しくないだろうか。最早気温が二十度を超えることも珍しくないこの時期に、長袖長ズボンで暑くないはずがない。

「――――どうかなさいましたか?」

 口を閉ざしたままの響に向かって、少女は細い喉を微かに震わせて問う。

 単純な疑問に、彼は答えない。答えることができない。かといって、ただでさえ頭がだるいのに、「なんでもない。」の六文字を返すのも何だか億劫おっくうで、薄氷の瞳を覗き返しながら状況の精査を続ける。

 色々考えて――――、考えて――――、考えた結果、彼はしずかに口を開いた。

「…………何だ、お前。」

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