第11話 新幹線よりも

 ごめん、ごめん。

 君が聞きたがっていること、そしてぼくが一番話したいことを、これから書くよ。ぼくね、一度死んでるんだ。でも生き返ったんだ。

 ぼくは、暗い井戸の中に居た。どんどん沈んでいくんだ、水の中に。でもちっとも苦しくないんだよ。

「もう少しだよ、もう少しだよ」

 って、声が聞こえるんだ。ううん、声じゃない。音? いや違うな。聞こえたんじゃないかもしれない。感じたって言った方が良いかもしれない。

 で、今度は足を引っ張られるような気がした。ぐんぐん速度が増して行く感じだった。怖くはなかった、不思議と。死ぬという感覚がなかったんだ。

 でその時、声が聞こえたんだ。はっきりと、声が。

「聡、聡。戻ってこい」って。確かお父さんじゃなかったかな。でも、どんどん沈んでいった。

「さとしちゃーん、さとしちゃーん! 戻ってらっしゃーい!」

 今度は、お母さんの声だった。ぼく、つい「はーい」って、答えちゃった。

 そしたら、体がふわーって、浮き始めたんだ。足に絡んでいたものも、すっと取れた。で、どんどん浮いていくんだ。沈んでいった時より、もっと速い速度でさ。


 新幹線よりも、うんと速かった。どんどん速くなって、息もできないくらいなんだ。でも、ちっとも苦しくなかった。でね、突然に、ずんと体が重くなって、ふーって息をして目を開けたら、お母さんがいた。わーわー泣いて、ぼくを何度も何度も叩くお母さんがいた。でも痛くなかった、嬉しかった。

 昨日ね、また声が聞こえたんだ。

「もういいのよ、聡くん。もう頑張らなくても、いいんですよ。待ってますからね」

 あれ、天使の声だよ。きっとそうだ。だって、すごく優しくて暖かい声だったもん。でね、その後にね、別の声が聞こえてきた。

「心底辛かったろう、心が痛かったろう。もういい。もう終わりにしていいんだ」

 そんな声が聞こえてきたんだ。神様のお許しをいただいたんだ。

 だからね、休ませてもらうことにした。大丈夫。今度目が覚めたら、きっと違うぼくになっているから。元気な強い子になっているから。

 そしたらまた、ぼくの親友になってくれるかい?

 新一くん、ごめん。そして、ありがとう。 松田 聡

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