第10話 もう一人のぼくが

 新一くん、元気ですか。

 突然にこんな手紙が届いて、さぞかしびっくりしただろうね。考えに考えたあげくのことなんだ。君にだけは、ぼくの気持ちを分かっていて欲しくて。母さんに話しても、多分泣くだけだろうと思うんだ。

 いや、本音を言えば、母さんには知られずにいたいと思う。こんな弱いぼくだなんて、絶対に知られたくない。

 お願いだ、新一くん。母さんには内緒にしていて欲しい。

 覚えているかい? 勿論覚えているよね、あのへび女のこと。あの件で、唯一の親友だった君を失ってしまったんだ。

 君のひと言はこたえたよ。そんな風に考えていたなんて、ぼくにはほんとに思いもかけぬことだったから。

 一時はね、君を憎んだりしたんだ。なんて言ったか、覚えてる? 案外、覚えていないかもね。

「ぼく、帰る。こんなの、やっぱり変だよ」

 って、怒ったように言ったんだ。そしてさっさと一人で帰ってしまったんだぜ。分かる? その時のぼくの気持ち。自分の馬鹿さ加減に腹を立てていたんだ。冷静に考えれば、へび女なんて存在しないことぐらい、すぐに分かりそうなものなのに。

 いや分かっていたのかも、案外に。君と別れる淋しさが、あんな行動を起こさせたのかもしれない。


 中学時代、虚無感に襲われていたぼくでした。父親の浮気問題で家庭が壊れちゃっててね。食卓にね、何日も帰ってこない父さんの分まで用意する母さんなんだ。

 そして毎晩、ぼくに「お父さんはね、あなたを捨てたの」って、言うんだ。

「悪い子だから、帰って来ないのよ」って言うんだ。毎晩毎晩、言われ続けたんだ。多分そう思うことで、母さん、自分を慰めてたんだろうね。

 でね、ベッドに入るとね、もう一人のぼくが言うんだ。

「お前は父さんだけじゃなくて、母さんにも捨てられたんだ。悪い子は、みんなに捨てられるんだ」

 何もかもが灰色に見えて、信じられるものが無くて…。いやそうじゃない。灰色とか何色とか、そんな色すら感じていなかった。そんなぼくだった。

 体調を崩して給食を嘔吐してしまったぼくのことを、席が隣り合わせたというだけで、君は介抱してくれた。嬉しかった、ほんとに。君だけは信じられる、そう思ったんだ。

 他人との交わりを煩わしいものとして敬遠してきたぼくだけど、君だけは唯一心を許せると思ったんだ。

 で、君との友情を揺るぎないものにするために、へび女救出大作戦を考えたんだ。

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