第7話 僕らの役目
月明かりだけが頼りだった。けれどもその月にしても、時折雲間に隠れてしまう。ややもすればくじけそうになる、心の移ろいそのものの月だった。
ござの隙間から中を覗いてみるが、真っ暗で何も見えない。私の心の中に”付いて来るんじゃなかった。そもそも無理だったんだ、この計画は。へび女がどこに眠っているのか、調べもしないなんて。檻だって? そんなもの、どこにあるんだよ。そんな大事なことを調べてないなんて、ひどい話だよ“と、憤りの気持ちが湧いてきた。
”いっそこのまま帰ろうか。ひょっとして、誘拐とかなんとか、警察に追われることになるんじゃないか? いやだよ、そんなの。なんでへび女のために、そこまでやらなくちゃいけないんだ。大人は、なんで黙って見てるんだよ。よし、帰ろうって言おう“
意を決して、友人の裾を握った。
「まずいぞ、まずいぞ。絶対、まずいぞ」
「そうなんだよ、まずいんだよ」
同じことを考えていたのかと嬉しくなった私だったが、まるで違っていた。
「もう逃げ出したんじゃないか? へび女。それとも他の誰かが…。いやそうじゃない。やっぱり、ひとりで逃げ出したんだ。それを皆が追いかけてるんだ、きっと」
突拍子もないことを口にし始めた。しかしそれはそれでいいと、私は思った。
「そうなの? そうなんだ。うまく逃げられると良いね。じゃ僕らの役目は終わったんだ。帰ろうか、家に。誰かに見つかると、おおごとになっちゃうからさ」
「何言ってるんだ! 見届けなくちゃ、だめだよ。ほんとに逃げられたかどうかを。もし万が一捕まったりでもしたら……」
「うん。捕まったりしたら…(助けるの?)」
喉まで出かかった言葉を、唾と共に飲み込んだ。
「助けるんだ、助けるんだ、何としてでも助けるんだ」
恐ろしい言葉が、やはり友人の口から洩れた。言って欲しくなかった言葉が、洩れた。
「そうだよね、助けなくちゃね」
私の口からも、信じられない言葉が出てしまった。そして体がぶるぶると震えだした。
「なんだい、怖いのかい?」
「そういう君だって、震えてるんじゃないのかい」
「怖くて当たり前だと思うよ。でもここで逃げちゃ駄目だ。勇気だ、勇気がいるんだ」
しっかりと握られた友人の拳が、その時ほど頼もしく思えたことはなかった。固く握られた拳にそっと手を添えると「僕にもその勇気を分けてよ」と、力を込めた。
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