第6話 赤ら顔の男

「あの赤ら顔の男の言うことなんて、みんな嘘っぱちだ。蛇しか食べさせてないんだ、きっと。だって、考えてもみろよ。もしも僕らと同じごはんを食べるようになったらだぜ、蛇なんか食べなくなるだろ? そうしたら、見世物にならないじゃないか! 誰が好き好んで蛇なんか食べるんだよ」

 目を輝かせて語る友人だった。

「助け出さなきゃ、世界中から笑われちゃうぜ。いや、笑われるだけならまだましだ。馬鹿にされて、軽蔑されてしまう。野蛮な国だって、思われちゃうんだぜ」

 熱っぽく語る友人に異論を挟む余地はなく、次第に私も又その行為に酔い始めた。

「とにかく、時間がない。祭りは今日までで、明日には次の土地に行ってしまう。助け出すには、今晩しかないんだ」

「そうだよ、急がなくちゃ。でも、どうしよう…」

 帰りの道々、計画を練った。といっても、友人の発する言葉に対し、「うん、うん」と同調するだけの私だったけれども。

「見つかるわけにはいかないんだ。街灯のある道は、だめだ。裏道を行くしかないぞ」

「でも、暗くないかい?」

「だから良いんじゃないか」

「そうか、そうだよね…」


 計画自体は、大雑把な計画だった。小屋から連れ出すことだけで、その後どこでどうするということまでは考え付かないものだった。

 ともあれその夜、友人宅に泊まるからと自宅に連絡を入れた。そして午前一時の柱時計の報を聞くと、眠い目をこすりながら行動に移した。

 家人に気づかれぬようにそっと出ると、目指すはあの小屋である。できるだけ暗い道をと回り道をしながら歩いた。

 酔っぱらいの声に怯え、巡回の警察官に出くわしはしないかと、また怯えた。犬に吠えられた折には、二人とも一目散に駆け出していた。

 そしてようやく、小屋に辿り着いた。遠回りしたせいで二十分ほどかかったろうか、しかし二人には一時間にも二時間にも感じられた。

「着いたぞ」

「着いたね」

「あの人は、どこだ? どこで寝てるんだ」

「どこだろうね、ほんとに」

 小屋の周りを音を立てぬようにと歩きながら、小声で声を掛け合った。二人寄り添いながら、何度も「どこだ」」どこだろうね」と声を掛け合い続けた。

 怖かったのだ。街灯は遠くにある。ここまでその灯りは届いてはくれない。境内に張り巡らされていた電灯は、すべて消えている。

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