第3話 友人との冒険談

  祭りの時期になると決まって、中学時代の友人を思い出す。

 三年に進級してすぐのことだった。ちょっとした事件を、引き起こした。後ろの黒板の端っこに、突然五線譜を引いた。そして「クラスの歌」というタイトルのメロディを書き始めた。ざわつく声も気にせず、一気に書き上げた。

「みんな。これに、歌詞を付けてよ。みんなで歌おうよ。それで、卒業後も同窓会の時なんかにさ、校歌と一緒に…」

「なんだよ、それ。許可、貰ってんのかよ」

友人の声を遮って、Sが咎めた。

「許可って、そんなの…。卒業したら、みんな別れちゃうんだし。良い思い出になればと思ってるんだ。このメロディが気に入らなきゃ、替え歌でも良いと思うんだ」

友人も引き下がらなかった。結局のところこの事件は、担任の「良いんじゃないか」のひと言で、幕引きとなった。


 そしてその後、女子の文字で歌詞が書きこまれたけれども、卒業に至っても誰も歌うことはなかった。以来クラスの中での友人は浮いた存在となってしまい、その友である私は変人扱いされる始末だった。


そんな友人との冒険談が思い出された。二人の中学時代の記念にと、お祭りにやってきた折のことだっだ。

「そこのお兄ちゃん二人。哀しい哀しい、へび女を見ていっておくれな。それはそれは奥深い山の中で生まれ育った娘で~、食べる物に事欠いたことから~、とうとうへびを食べるようになっちまいました~。ある日猟師が~とある山の、山中深く押し入って~」

その呼び声が面白く、つい足を止めてしまった。その口上如何によって客足が違うらしいが、その折の呼び声の主は相当に年季が入っていた。もう五十を超えた、少し頭の禿げ上がりかけている赤ら顔の男だった。


その口から発せられるつぶれたしゃがれ声が、どことなく怠惰的な雰囲気を醸し出す。

今にも倒れそうなござで囲われた小屋に妙に合っていた。時として男の口上が聞き取れなくなるのだが、それもまた興味心をあおり立てた。

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