第2話 祭りの一番

 私にとっての祭りの一番は、何と言っても見世物小屋だ。全国の祭りを求めて渡り歩いているそれが、私にはとても懐かしいものになっている。

 しかし最近では、よほどのことがなければ見かけることがない。もう過去の遺物となってしまったのだろうか。そんな感傷に浸っていると、あの懐かしい呼び声が聞こえてきた。

「さあさあ、お代は見てのお帰りで結構だよ~。さあ、急いだ急いだ~。けどさ~、心臓の悪い方は止めとくれよ~。化けて出られちゃあ、あたし、嫌だからねえ~。でもねえ、きれいなお姉さんの幽霊なら~、大歓迎だよ~」

 慌てて辺りを見回してみるが、それらしい小屋はない。

「なあ、妙子。今、呼び込みの声が聞こえなかったか? 今さ、聞こえてきたんだよ」

 しかし彼女は首を振り、怪訝そうな表情を見せている。キョロキョロと辺りを見回していたが、お目当てのりんご飴を売る夜店を見つけて、脱兎の如くに駆け出した。

 一人取り残された私は、人ごみをかき分けてまで追いかける気にならずに、傍らの玉垣に腰をかけた。

「あゝ、悪いんだ。罰が当たるよ!」

 りんご飴を、さも愛おしそうに舐めながら、彼女が戻ってきた。

「ねえ。あっちにね、お化け屋敷があるの。

入ってみない?」

「あゝ? お化け屋敷って、またか? この間入ったばかりじゃないか。それでもってぼくにしがみついて、一歩も動けなかったろうが。それなのに、またか?」

「意地悪! でもまた、入りたいんだもん。この間のは、西洋のお化けだったでしょ? 

ここのは、日本のお化けみたいなの。日本のお化けは知ってるからさ、そんなに怖くないんじゃない? ねえ、行こうよ。あ、そうそう。さっき新一が言ってた呼び声って、お化け屋敷じゃなかったの? 頭の少し禿げ上がったおじさんが、一生懸命大きな声を張り上げてたわよ」


 目を輝かせて、私の手を引っ張る。人一倍怖がりのくせに入りたがる彼女だった。今では見世物小屋ではなくお化け屋敷が、お祭りにとってなくてはならぬものなのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る