第33話 恋人の親に挨拶しよう!
村に帰った次の日、俺は緊張しながらエルザの家の前にいた。
事前にエルザを通して伺うと連絡していたとはいえ、相手は俺の恋人の実家。
洋服は王都で買った橙色のワンピースに皺がないことを確認して、髪型も整えてから扉をノックする。
よし、今の俺は超絶美少女にして天才魔術師だ。
がちゃりと扉を開けたのはシャツを着て、頭にバンダナを巻いたエルザだった。
寝起きなのか、髪に変なクセがついていた。
「いらっしゃい、カイン」
寝起き特有の少し掠れた声をしていた。
よく分からないが、お腹の奥がきゅんきゅんする。
これが、ルミナスが言っていた『男の色気』ってヤツか。
とりあえず、本能に従って抱きつくと抱きしめ返してくれた。
寝起きでポカポカの体をしていた。
一生この腕に包まれたい……。
「お、おはようエルザ」
「おはよう、カイン。母さんと父さんを起こしてくるから待ってて」
家のダイニングに通されて、お茶を出された。
寒い外にいた俺を気遣って暖かいお茶だった。好き。
エルザの家は、兎飼いらしく刈り取った兎毛や杖が置いてあった。
それから数分もしないうちにエルザの両親が身支度を整えてやってきた。
俺の顔を見て、エルザの母さんがペコリと頭を下げる。
「ごめんなさいね、あふ……」
ふわぁ、とエルザの母さんが欠伸をする。
隣でエルザの父さんも大きく欠伸をしていた。
「すっかり寝坊してしまったよ、待たせてすまなかったなカイン……くん、ちゃん……さん。カインさん」
俺の呼び名を悩んでいたエルザの父さんは、さん付けでいくことに決めたらしい。
血は繋がってないというのに、几帳面で丁寧なところはよく似ている。
「エルザのことは本人から聞いたよ。初めて聞いた時は驚いたけど、これまで助けられたからね」
「よく兎を狙う狼を退治してくれた時から、この子は普通じゃないって思ってたのよ」
そう言ってはしゃぐエルザの両親。
彼らがこうやってすっと受け入れられるのも、これまでエルザが狩りで村に貢献してきたからだ。
そして、その姿を一番近くで見てきたからどんなエルザでも受け入れる覚悟が出来たんだ。
家族愛にほっこりしていると、エルザの両親が真剣な表情になる。
「うちの娘……今じゃ息子か。とにかくうちの子をよろしく頼むよ」
「こ、こちらこそ不束者ですがよろしくお願いします」
エルザの両親は息を合わせたように同時に頭を下げたので、俺も慌てて頭を下げる。
「エルザのことをよろしくね。困ったことがあったら相談してちょうだい。ゆくゆくは家族になるのだから」
「はい、お
「あらあら、うふふふ。もう気が早いわよ、まったくもう……孫の名前は何がいいかしら?」
「か、母さん……! ま、まだ結婚式の日取りも決まってないのに……!」
口元を手で隠しながら、隣に座る夫の肩をばしんと叩くエルザの母さん。
いい音が響いて、叩かれた方は微かに顔をしかめていた。
エルザは顔を赤くしてあわあわしていた、やはり可愛い。
「話はそれくらいにして、カインは朝ご飯、ていうかこの時間だとお昼か。お昼ご飯食べていきなよ」
「あ、そういえばこれお土産に持ってきたんだ」
王都で買った鹿肉と塩をバスケットから取り出して机の上に置くと、エルザの母さんはキラキラした目で鹿肉を見つめていた。
そういえば、エルザの母さんはかなり食に拘りがあるとかなんとか。
……料理、教えてもらおうかな。
ほら、恋人に喜んでもらえるような手料理とか作ってあげたいし?
「エルザ、俺も料理手伝うよ」
「そう? 座っていてもいいのに」
「俺が手伝いたいの」
いそいそと食事を用意し始めたエルザとエルザ母に混じって支度を進めているとレシピやコツを教えてくれた。
エルザの胃袋を掴むのはなかなか難しい、と俺はメモしたレシピを片手に料理の練習を覚悟した。
ひとまず、父さんを練習台にしようかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます