第15話 脚光を浴びるエルザ


「えっ! ワイバーンを討伐した!?」


 駆けつけてくれた他の冒険者と一緒にワイバーンを運び、驚いていた受付のお兄さんもといハミルトンが駆け寄ってきたので事情を説明していた。

 解体したとはいえ、ワイバーンの赤い鱗は人目を引く。

 ハミルトンの叫び声を聞いた冒険者たちがわらわらと集まってきたので、俺たちはすぐに囲まれてしまった。


「ワイバーンを倒したのか。登録から一ヶ月とはなかなかじゃないか」

「この辺にワイバーンが出現したのか。よく生きてたな」


 何回か冒険者ギルドで見かけただけの人たちから話しかけられて、エルザは苦笑いを浮かべながら応対していた。

 ちなみに、エルザに話しかけているのは女冒険者が一人、その仲間と思しき仲間二人だ。


「おお、あんた筋肉凄いね!」

「え、それほどでも……ないですね……」

「見なよ、この筋肉!」


 俺がハミルトンに気を取られている間に、エルザは女冒険者にシャツを剥ぎ取られていた。

 ランタンの明かりにエルザの裸体が照らされる。

 他の冒険者に引けを取らない、鍛え上げられた腹筋や二の腕の上腕三頭筋が陰影を生み出していた。


「初めて会った時からタダモンじゃないとは思ってたよ!」


 そう言って女冒険者はペタペタエルザの胸板を触る。

 エルザは顔を赤くして狼狽えるばかりで振り払うことはしなかった。


 ……なんだよ、アイツ、初対面の人間にベタベタしやがって。

 アイツより俺の方が先にエルザの筋肉凄いって知ってたし?

 エルザもエルザだ、シャツを剥ぎ取られたのに取り返そうとしないで胸を隠そうとして──そういや、エルザは女の子だった。

 そりゃ胸を隠したくなっちゃうよね。

 でもさ、でもさ、ちょっと満更でもなさそうな顔をするのは違くない?

 俺が褒めても「そんなことないよ」っていう癖に、なにが「ちょっと、恥ずかしいんでそろそろ……」だよ!


 ぐぬぬ、と歯がみしていると女冒険者と目が合った。

 ソイツは二チャリと笑って、エルザの胸板に擦り寄る。


「あたい、あんたみたいな男になら是非とも抱かれたいね。今夜とかどうだい?」

「えっ!? いや、それはちょっと……」


 クソッ、あの女冒険者のやつ、エルザに色目を使いやがった!!

 おまけにさりげなく抱きついて胸を押し付けやがった!

 許せねぇ……ッ!!


 何か話したそうにしているハミルトンを無視してエルザの腹にタックルして抱きつく。

 勿論、エルザから死角になるように女冒険者の手の甲を抓る。


「エルザッ!」

「おわっ!? ど、どしたの?」


 受け止めたエルザの腹筋のうねりを感じながらも、強情に踏ん張って俺を退かそうとしてきた女冒険者をそっと魔術で阻む。


「テメェッ……!」

「エルザ、疲れたから早く素材とか売って宿屋に戻ろ?」

「そうだね、そういうことなんで失礼します」


 背中にエルザの掌を感じて、俺は勝利を確信する。

 色仕掛けを邪魔された女冒険者は物凄い形相で俺を睨んできた。

 選ばれたのは絶世の美少女にして幼馴染の俺、ポッと出のヤツなんかお呼びじゃないんだよ!

 おー、おー、僻みの視線が気持ちいいねえ!!

 ほら、あっち行けしっしっ!


 女冒険者に「あっかんべー!」と舌を出すと、ソイツは舌打ちして何処かに消えていった。

 守りきったぜ……!!


 女冒険者が消えたところで、エルザが無言で俺の背中を軽くポンポンと叩く。

 見上げると、エルザは困った顔で俺を見下ろしていた。


「ね、ねえカイン。ちょっと髪の毛が擽ったいからすりすりするのやめて……あと、周りの視線が……」

「むう、分かった」


 とりあえず心の赴くまますりすりしていたら怒られてしまった。

 でも抱きついていても何も言わなかったし、頭を撫でられたからそれで良しとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る