第12話 お洒落
次の日、森で活動するにあたって適切な装備が必要というエルザの訴えもあって俺たちは洋服を選びに店を訪ねていた。
そんなわけで俺はエルザのサイズに合う服を適当に見繕っていたのだが……。
「カイン、こんなに洋服を買っても持て余すよ……？」
「ぐぬぬぬぬぅ……おかしい、なんで適当に選んだ服が似合うんだ……？」
店頭に飾られていた一式から冒険者の擦り切れた中古のローブまで全てがバッチリ似合ってた。
なんなら俺が憧れていた
悔しさに歯噛みしていると、エルザはため息を吐きながら何枚かの洋服を戸棚に戻していく。
「私の分の服を買ってくれるのは嬉しいけど、そろそろ次のお店に行こう」
「むむ、そうだな。俺の服も買わないといけないな」
気がつけば一時間以上も店の中で過ごしていた。
会計を済ませ、中古品を取り扱う店で俺の分の服を探すがピッタリのサイズが見つからなかった。
それかは何件か店をふらふらと探していると、エルザが俺の手を引いて指を指す。
その方角にあったものは女性ものを専門で取り扱っているお店だ。
店の前で、俺は立ち止まる。
「入らないの？」
「うぐ、入りたいんだが、なんというかお洒落な感じがしてだな。別日に中古のお店でもいいんじゃないかな？」
店の前で尻込みした俺を、エルザが呆れた顔で見下ろしていた。
「わ、分かったよ……」
エルザの視線に負けて、俺は見るからに煌びやかなお店の中へ入った。
なんということか、店に並ぶ商品はどれもふりふりだったり色とりどりで綺麗な服ばかり。
店の放つ雰囲気に圧倒されていると、エルザがハンガーに掛けられた服を取って俺の身体に当てがう。
女物らしい、淡い水色のワンピースだった。
「カインはウエストが細いから、ズボンやスカートよりワンピースを基準に考えた方が良さそうね」
「お、おう……」
どんな服がいいか分からずに返答に迷っている間にエルザは手早く俺の服を選んでいく。
何着か選んでいたエルザがふと顔をあげて、俺と視線が合うとハッとした顔をした。
「ご、ごめん。つい、従姉妹の時と同じように選んじゃった。ズボンが良かったかな？」
「えっ！？ あー、これも記念みたいなモンだし……折角だからコレ、買うわ」
もし元に戻ったら、こういう服を着る機会もなくなる。
どうせなら着ても問題はないはずだ。
「じゃあ、ちょっと試着してくる！」
エルザが選んだワンピースを着てみると、驚くほどしっくりきた。
足の間がスースーすることだけが難点だが、悪くない。
なにせ、今の俺の外見は金髪碧眼の美少女！
エルザがイケメンなら、俺だって多少外見で役得なことをしてもいいはず。
エルザから見て、今の俺の外見ってどうなんだろうか。
もじもじしながら、ちょこっと試着室のカーテンを開けて様子を伺うと、エルザと目があった。
「ど、どうかな？ 似合う？」
勇気を振り絞ってカーテンを開けてみる。
やっぱり恥ずかしさが勝って、上目遣いでもじもじしてしまう。
「似合ってるよ」
「そ、そお？ エルザが選んでくれたワンピースだからな……！」
褒められて顔に熱が集まる。
満更でもない気分で、ポーズを決めているとエルザだけでなく店員もやってきて褒めてきた。
「冬は風が強いからスパッツかな」
エルザが近くの戸棚からスパッツを選び、俺のワンピースのタグを千切ると会計へ持っていく。
目を丸くしていると、店員がコソッと俺に耳打ちしてきた。
「彼氏さんですか？ かっこいいですね」
「えっと、あはは……」
否定するタイミングを逃して、ついうっかり俺は肯定とも取れる返答の仕方をしてしまった。
「それにしてもお買い物デートとは羨ましいですね」
「あは、あはは……」
『デート』という単語に俺の心臓が跳ねる。
業務に戻った店員の背中を見送りながら、俺はバクバクとうるさい心臓を胸の上から押さえる。
もし恋人が出来たら、こんな風にデートしてみたいと思ってた。
想像していたものとかなり状況は違うけれど、周りからそう見られていることになんとなく充足感のようなものを覚える。
でもやっぱり俺の予想通り女の子にチヤホヤされてるエルザの外見が気に食わなかったので脇腹を抓った。
脇腹が男だった時の俺より筋肉で固かったので負けた気がして余計惨めな気持ちになったが、困った顔をしていたのでそれで許した。
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