第9話 初めてのお仕事
俺たちはお金を稼ぐために王都の外に出て、冒険者ギルドの管理下に置かれている森を訪れていた。
冒険者の仕事はダンジョンの探索か、街の外に潜む魔物の討伐や資源回収が主なものになる。
ダンジョンで稼ぐには少なくとも四人以上、そしてランクB以上でないと入ることすら叶わないので、駆け出しの冒険者は森でコツコツ魔物を狩ってランクを上げることを目指すのだ。
「よし、エルザ。今日の目標は薬草を五束、小型の魔物を数匹狙っていくぞ」
「分かった。カインは武器がないんだから、気をつけてね」
一応、そこら辺に落ちていた丈夫そうな木の枝を加工した急ごしらえの武器を手にしているが、たしかにこれで魔物と戦うには心許ない。
基本的な戦闘はエルザに任せて、俺は魔術でサポートすることに専念しよう。
「薬草みっけ」
森のなかを踏み固められた道に沿って進みつつ、薬草や換金できそうな素材を回収していく。
薬草自体は街中でも買えるのだが、自然に生えている方が葉が大きいのだ。
一説によれば場所によって大気中の魔力に差があるから、という研究結果が報告されている。
そのため、効能にも少なからず影響が出ているのだ。
こういったものを冒険者ギルドに買い取ってもらうことで、ポイントが加算されてランクに影響する。
見張りは目がいいエルザに任せて俺は回収に勤しむ。
目標だった薬草五束を回収した頃、先導していたエルザが掌で俺に合図を送ってきた。
「カイン、魔物だ。兎型の魔物が二匹、粘性の魔物が一匹。どうやら戦っているらしい」
「漁夫の利を狙うか?」
「いや、粘性の魔物が消化液を振りまいているから時間が経てば経つほど手に入る素材が少なくなる。ここで待ってて」
そう言うや否や、エルザは音もなく駆け出して行った。
目を細めると、たしかにエルザの言う通り兎と泥色の塊が戦っているようだった。
戦いは兎側が不利だったが、エルザの加入でものの数秒で塊は槍を突き立てられて動かなくなり、兎二匹は首根っこを掴まれていた。
熟練の手つきとしか言いようがないほど手際がいい。
「すごいな、エルザは」
勇者パーティーにいた頃、何回か魔物を狩ったことがあるがエルザの動きはしなやかで、まるで踊っているようだった。
音もなく、ひらりと近寄って武器を突き立てる。
【戦士】や【勇者】とは違った動き方をしていた。
「そう? まあ、狩りで慣れてるからね」
ごきん、と兎の首骨を折って紐で腰に括り付ける。
一切躊躇のない行動に驚くが、生きていては逃げられることもあるかと思い直して気にしないことにした。
「それじゃあ、ぼちぼち日も傾いてきたから王都に戻りましょう」
「ああ、そうだな」
エルザの背中を追いかけながら、俺はたしかな手応えを初日で感じていた。
戦いでは役に立たないかもしれないが、エルザは植物の効能についてあまり詳しくないようだった。
また、魔術についても明るくないようで、魔物の狩りに特化している知識があるぐらい。
「薬草の回収はカインに任せる」と言われた時、俺は密かに嬉しかったのだ。
役に立てた。
一度も邪魔だと言われなかった。
俺はたしかに必要とされている。
エルザはとんだ災難に巻き込まれたと思っているかもしれないが、俺はこの状況を嬉しく思い始めていたのだ。
そして、獲物を仕留めた時のエルザの動き。
舞うような軽やかな動きは運動が苦手な俺を魅了するにはあまりにも完璧だった。
「エルザ、俺、もっと頑張るよ」
「そう? 期待してるわ」
「っ……! ああ、任せてくれ!」
これまで苦手だったはずの『期待』という言葉に心臓が跳ねる。
ドキドキと高鳴る胸を押さえながら、俺は顔に熱が集まるのを感じた。
俺の異変に気づかず、エルザは周囲を警戒しながら進んでいく。
エルザの期待に応えたい。
それで、もっと俺に期待してほしい。
隣を歩いていても不釣り合いと笑われないような、そんな存在になりたい。
今度はちゃんと役に立つから。
王都に戻ったら薬草辞典を買おうと決めて、俺は森のなかを歩いていった。
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