第6話 冒険者ギルド


 冒険者ギルドの中は、王都の往来ほどではないにしても多くの種族の姿を見ることができた。


 屈強な筋肉と顎髭が特徴のドワーフや、しなやかな体躯のエルフ、獰猛な狼の顔をしたリカントたちがテーブルを囲みながら情報交換をしていた。

 扉を開けた俺たちを見て、すぐに興味をなくしたように視線を逸らす。

 下手に絡まれるよりはマシだと思い直して、まっすぐ受付と看板が掲げられたカウンターへ向かう。


「冒険者登録を頼む」

「かしこまりました。それではこちらの用紙にご記入ください」


 受付の職員のお兄さんから用紙を二枚受け取り、エルザと一緒に情報を書いていく。

 用紙は名前と出身地、性別と戦闘スタイルの欄があった。

 性別は悩んだが、とりあえず今の身体のものに丸をする。

 俺の用紙を見て、エルザも察したようで男に丸をしていた。


「書き終わりました」

「それでは、確認させていただきます。魔術属性は……四属性!?」


 受付のお兄さんが声に出した瞬間、冒険者ギルド内のお喋りしていた声がピタリと止む。

 突き刺すような視線を感じて、俺は反射的に肩が跳ねてしまった。

 この『期待しながら品定めするような視線』がいつ、勇者パーティーを追放された時のように『失意と呆れ』に変わるんじゃないかと考えて、心臓がバクバクと早鐘を打つ。

 そんな状況を破ったのは、隣に立っていたエルザだった。


「ちょっと、書類の内容を大声で叫ぶなんて何を考えているんですか」

「あっ、すみません!」


 エルザのドスの効いた声に、受付のお兄さんは顔を真っ青にして俺に頭を下げた。

 周りの冒険者から注がれていた視線がすっと消えて、また冒険者たちはお喋りに戻った。


「次から気をつけてください」

「は、はいっ! ま、まずはお連れ様から確認させてもらいましゅ……ますっ……!」


 すっかり萎縮した受付のお兄さんはエルザの書類から手をつけることにしたらしい。


「エルザさんの武器は槍、魔術は使用しない……とのことですね」

「はい、それで相方は魔術を使います」

「そ、その……四属性を扱えるというのは間違いありませんか……?」


 受付のお兄さんはエルザの視線にびくびくと怯えながら、囁くような声で俺に尋ねてきた。


 魔術には、大まかに分けて四つの属性に分かれている。

 『火・土・水・風』、個人差はあるが訓練すれば四属性全てを扱うことは不可能ではない。

 そこから扱える魔術によって初級・中級・上級の三つにランク分けされている。

 俺が扱えるのは五年かけても中級どまり。

 そこから先は習得しても何故か魔術が発動しなかったのだ。

 そんな俺に比べて、勇者パーティーに所属している【魔術師】のルチアは一年で四属性全ての上級魔術を扱っていた。

 噂によれば、聖級と呼ばれるさらに上位の魔術も扱えるようになったらしい。


「中級ていど、ですけど」

「な、なるほど……」


 ああ、ほら。

 肩透かしを食らったような、そんな驚いた顔をしている。

 そうだよ、どうせ俺は【賢者】っていう肩書きを持っている方がおかしい無能なんだよ。

 ぐるぐると自己嫌悪に苛まれているとエルザが職員に詰め寄る。


「それで、他に手続きは?」

「あっ、はいっ! 次は冒険者ライセンスの発行です!」


 そう言って受付の人が手渡してきた冒険者ライセンスのカードには一番下の階級であるEランク……ではなくて、次のDランクが記載されていた。

 エルザはEのままなので、恐らく間違えたんだろう。


「あの、このカード間違えてますよ?」

「すみません、規則ですので。なるべく他の方には見せないようにお願いします」

「そんなこと言われましても……」

「近々、ここの責任者が戻ってきますのでとりあえずはこのままでお願いします。本来は、魔術師はもう少しランクが上がるんですけど確認できる人がいませんので、とりあえずの処置としてDランクになります」


 どうしようかと悩んでいると、エルザが肩を竦めたのでここは受付に従っておくことにした。

 念のために職員の名前を頭に叩き込んでおく。

 冒険者ギルドを出て、しばらく歩いているとポツリとエルザが呟いた。


「何があったかは聞かないけどさ、カインが俯く必要はないと思うよ」


 まっすぐ前を向いているエルザの横顔は、夕焼けの反射も相まって見上げながらじっと見つめるには眩しかった。

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