第5話 王都クインベル
王都クインベルは、村から馬車で半日ほど移動した場所にある。
俺たちは馬車に余裕があったので、片隅に乗せてもらうことになったのだ。
見張りも兼ねて、エルザが槍を片手に周囲を鋭く見回す。
てっきり武器は弓とか遠距離系のものでも使うのかと考えていたが、エルザは村一番の槍の使い手らしい。
去年は、猪を一人で仕留めたとかなんとか。
その見慣れない姿に、俺はなんだか少し寂しい気持ちを覚えた。
勇者パーティーから追放された無能な俺とはえらく違う、そのことも俺とエルザの違いをぱっきりと分けているようで暗い気持ちになる。
ガタゴトと馬車に揺られながら、俺は村を出発した時の事を思い出していた。
『ごめんなさいねぇ、カインさん! 詳しい話はウチのエルザから聞いたわ。何か困ったことがあったらなんでも頼って頂戴。といっても出来ることは限られているけど……』
そう言ってエルザの母親から強引に渡されたのは、首都で一泊できる金額のレルス貨幣を数枚。
エルザとは血が繋がっていないらしいが、責任感が強いところはちゃんと親子だと思う。
それから一言二言、エルザは家族と会話を交わしてから馬車に乗り込んだ。
俺の実家は放牧で忙しいので、既に別れは済ませている。
二度目ともなるとあっさりしてしまうのは仕方ないけれど、少し寂しいものがあった。
期待外れな出来の悪い息子(今は娘、なのか?)が帰ってきても追い出して勘当しなかっただけマシなのかもしれないけど。
検問を抜け、馬車は栄えた王都の城壁内へ。
魔物や戦争の脅威から守るために築かれた壁の内側には混沌とした景色が広がっている。
俺にとっては新鮮味もない二度目の景色だ。
往来を歩く様々な種族や物販はいつ見ても統一性がない。
国で最も栄えている場所なので、各地の国民だけでなく外国からの商人や外交官も訪れているのだ。
エルザは呆けた顔で馬車の中から見える街並みを眺めていた。
その表情は、小さい頃、俺が初めて魔術を使って見せた時と変わっていなくて、少しだけほっとしてしまう。
「ここが、王都クインベル……」
「家の間隔が狭いだろ? この辺りは土地が高いんだ」
「ほえ〜」
エルザはきょろきょろしながら、しきりに「建物が高い……」、「猫だ……」や「木造じゃない……」と呟いていた。
俺も迎えの勇者に連れられて初めて王都に来た時、こんな風に景色に圧倒されていた。
当時のことを思い出して懐かしい気持ちになる。
これから市場に向かうという行商人と分かれ、俺たちは王都の商業区画を歩く。
「カイン、王都についたけどこれからどうするの?」
「今日はもう夕暮れだからな。冒険者ギルドに行って登録かな」
「冒険者ギルドに……? カインなら魔術師ギルドの方がいいんじゃない?」
「あー……ちょっとな」
エルザや俺の家族には詳しく話していないが、勇者パーティーから追放された時に諸々の実績やら研究成果を“無かった”ことにされたのだ。
ライセンスも剥奪された今、魔術師ギルドに赴いたところで門前払いを喰らうのが目に見えている。
完全実力主義、というか問題さえ起こさなければ放任主義の冒険者ギルドの方が便利なのだ。
逆にいえば、手柄を立てないと保護してもらえないことも意味しているが……。
「冒険者ギルドの方が身分証明だとかそういう手間が省けるんだ」
「そか。分かった、冒険者ギルドに行こう。あそこかな?」
エルザはじっと看板を見て、すっと指差す。
たしかに冒険者ギルドに向かっていたが、距離としてはまだまだ遠い。
試しに俺も見てみたが、看板の文字を読むことなんて到底できやしない。
それどころか、看板は豆粒ほどの大きさだ。
出入りする人の風態で判断しようにも、よほど目が良くない限りは難しい。
「エルザは目がいいんだな」
「えっ!? そ、そうかな」
驚いた様子のエルザに俺は首を傾げる。
そんなに驚くようなことだろうか。
俺は普段から本を読んでいるので、他の人と比べて目が悪い。
エルザは普段から魔物を狩るなら、少なくとも俺よりは目が良くて当然のはずだ。
「たしかにこの先に冒険者ギルドがあるぜ」
「……さっき、道ゆく人が冒険者ギルドへの行き方について話していたんだ。だから、そうなのかなって」
まるで言い訳をするような物言いに疑問を覚えたが、歩いている最中に冒険者ギルドの前に到着した。
「そうか、まあとにかく中に入ろうぜ」
「分かった、どんなところなんだろ……?」
そうして俺は冒険者ギルドの扉を開けて中に入った。
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