第4話 これからのプラン
うとうとしていたら、あっという間に村に到着した。
エルザは俺の家まで運んでくれたのは嬉しいのだが、タイミングが悪いことに両親がちょうど二人とも揃っていた。
二人はじっと俺の顔を見て、それからエルザを見る。
信じられない様子で、母さんは呟いた。
「カイン……なの?」
誤魔化してもしょうがないので、コクンと頷くと母さんは「あらあ……」と口を押さえる。
いつもいばり散らしてる父さんは頭を抱えて座り込んでしまった。
「それじゃあ、その赤い髪の男の子はエルザ……なのね?」
「はい」
母さんは数秒考え込んで、それから深くため息を吐いた。
「詳しい話を聞きたいから、二人とも座りなさい」
言われるがまま、テーブルの前に置かれた椅子に腰掛ける。
隣にはエルザ、向かいには母さんと父さんが座った。
「それで、裏山に行くと言って出かけて、どうしてそんなことになったの?」
「あーっと、とりあえずは裏山に行って魔物を探していたんだが……見たことのないダンジョンを見つけて……それでダンジョンコアを手に入れたんだけど、ちょっとトラブルがあってこんなことになっちゃった」
なるべく丁寧に、そして分かりやすく状況を説明する。
そして話を最後まで聞いた母さんは、俺の頭を叩いた。
スパァンッ、と見事な音が俺の頭から響く。
「イデッ!?」
「アンタ、エルザちゃんまで巻き込んで! 責任とんなさいっ!」
「わ、分かってるよ……!」
女の子になっても一切手加減がない。
俺たちのやりとりを見ていたエルザが慌てたように弁解を始める。
「あの、カインのお母さん。カインは悪くないんですっ、元はと言えば私がカインの忠告も聞かず……!」
「あらぁ〜、エルザちゃんは本当にいい子ねえ! ごめんねえ、女の子に戻れなかったら、ウチの息子でよければ貰ってちょうだいな!」
「あ、あはは……」
母さんの怒涛の畳み掛けにエルザもたじたじだ。
この家にいる誰も母さんに口喧嘩で勝てた試しがないので、母さんが満足するまで黙るのが吉。
流れを見て黙る様を風見鶏と嗤うがいい、母さんには勝てないのだ。
「あ、そうだわ。エルザちゃん、良かったらカインの服を何着か貰って行ってちょうだい!」
「えっと、それはカインのものですし……」
「いいのよ。体のサイズも大体カインと同じね!」
そう言って母さんは俺の部屋に勝手に入り、クローゼットを漁って何着か服を持ってきた。
服の隙間から俺の下着も見えたが、俺はそっと見なかったことにする。
この辺りでは服を買うのも行商人頼み。
今のエルザは女性用の下着を履いていることになるのだ。
俺は女性用の下着に詳しくないから細かいことまでは分からないが、身体に合った下着の大切さは知っているつもりだ。
ここまで運んでくれたお駄賃と思えば安いもの。
「すみません、お借りしますね」
「いいのよ、エルザちゃんには世話になりっぱなしなんだから!」
「明日、カインが着れる服を見繕って持ってきます」
「助かるわあ! ほらっ、カイン! ちゃんとお礼を言いなさい!」
「イデッ、ありがとう……」
すっかり萎縮したエルザを見えなくなるまで見送った。
そして、母さんは俺の肩を掴むとぐわっと目を見開く。
ゴブリンよりも凄まじい形相に、俺は反射的に身体が竦んでしまう。
「いい、カイン? どんな手段を使ってでもエルザちゃんを手に入れなさい。この際、どっちが男だろうと構わないわ」
「えっ!? 母さん、何言ってんの?」
「貴方には言ってなかったけど、エルザちゃんは貴方がいない間、この村の近くにいる魔物を倒してくれていたのよ。そんな子が他所に嫁ぐなり婿に行くなりしてご覧なさい?
────この村は滅びるわ」
初耳な話を聞いて、俺はパチクリと瞬きをする。
そりゃ女性でも魔物と戦う人は王都でも見かけたが、その数はとても少ない。
好き好んで悍ましい魔物と戦う人間自体が少ないのだ。
「ザックラー衛士もいるだろ? そんな大袈裟な……」
「あの人は……ダメなのよ。色んな意味で」
「あぁ……」
母さんの言葉に、俺はついうっかり納得してしまう。
ザックラーは王都から派遣された兵士で、この村を守ってくれているけど、剣の腕ははっきりと言ってからっきし。
本当は何かヘマをやらかしてここに左遷されたんじゃないかという噂までされているぐらい頼りない。
「とにかく、アンタが男の子だろうと女の子になろうと変わらないわ。これをきっかけに落とせ! 何がなんでも手に入れるのよ!」
「あ〜……頑張るわ……」
一度『こう』と思い込んだ母は面倒なので、とりあえず話を合わせておく。
兎にも角にも、まずは王都に行って学者を探しつつお金を稼がないといけないな……と俺は考えたのだった。
次の日の朝。
痛めた右足首はすっかり治って、動かしても問題ないほどにまで回復した。
とりあえずだぼだぼの服をどうにかしようと頭を悩ませていると、両手に服を抱えたエルザが家にやってきた。
「これ、まだ着てない服とか紐で調節できるやつ……よかったら使って」
「おう、ありがとな!」
エルザに手伝ってもらいながら服を着替える。
エルザは長身だったので袖が少し余るが、男性ものを着るよりは動きやすい。
俺のためを気遣ってだろうか、ズボンを中心に選んでくれたようだ。
下着を手に取った時、少し邪な考えが頭をよぎったが頭を振って邪念を追い出す。
「よし、ばっちり! 意外と似合うもんだなあ」
貫頭衣の下にズボンを着て、ブーツを履けば着替え完了。
いつもなら杖を収めるためのベルトを巻いたりするのだが、その杖は勇者パーティーから追放された時に没収されてしまったので素手がデフォルトだ。
「カイン、今日の午後に行商人の馬車が王都に向けて出発するらしい。その……私も王都でカインを手伝うよ」
「村を離れても大丈夫なのか?」
「従兄弟の冒険者が腕慣らしにしばらくここに留まるんだって。だから、私がここにいなくてもしばらくは大丈夫」
昨日の母さんの話が本当なら、エルザは一人で魔物を狩れる程度の強さはあるということだ。
俺も魔術を扱えるとはいえ、魔物の種類によっては魔術が効きづらいこともあるし、一人より二人の方が助かることの方が多い。
それに、今の俺の身体は女だ。筋力的な不安もある。
「そうか、エルザが手伝ってくれるならありがたい。それじゃあ、王都へ行くための準備をした方がいいな」
「武器は持っていくとして、何か他に持っていくものはあるかな?」
「大抵は王都で揃うからな。金ぐらいか」
「分かった。一度家に戻って準備してくる。迎えに来るから待ってて」
「おう、分かった」
エルザと待ち合わせの約束をし、俺は早速王都に行くための準備を整えることにした。
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