第12話 尋斗の過去、彼女との思い出

あたり前のように過ごした日々


あたり前のように存在している今


それが終わる瞬間が間近に迫っていた





「尋斗、尋斗」



俺の彼女の、エリカが俺の名前を呼んだ。



「何?」

「ううん…何でもなーい」



おどけて見せる笑顔が、また可愛く見える。



「何だよ、それ」

「ただ、呼んでみただけ」

「はあぁぁっ!?」



クスクス笑う、エリカ。



「そう言えば尋斗、そろそろ誕生日だよね?」

「あー忘れてた!」

「自分の誕生日を忘れる馬鹿どこにいるの?」

「ここ」




自分を指差す俺。




「尋斗、何が欲しい?」

「お前」

「えっ?」

「なーんてな」

「あのねー…」




俺はエリカにキスをした。




幸せで微笑ましいカップルの姿。


何処でも見掛け、何処でも一度はありそうな会話のカップルの光景だった。




そんなある日のデートの別れ際。



「尋斗…今日は…帰りたくない…」

「えっ?」

「…尋斗と…一緒にいたい…」

「…エリカ…」

「お願い……」




彼女に言われ帰す訳には行かず俺は彼女を連れて行く。


何か心に秘めているような気がしてならなかった。




そんなある日、エリカが病院に運ばれた事を聞いた。



「尋斗」

「ん?」


「私……健康な体に生まれたかったな……持病が悪化するなんて……本当ついてないなぁ~…最悪だなぁ~…」


「エリカ…」


「もし、健康な体だったら尋斗と結婚して、子供は二人か三人で幸せな家庭…」




俺は、エリカにキスをした。



「幸せな家庭なんて言葉じゃ足りない。世界一、宇宙一、幸せ。誰もが羨ましく思うようなさ。もちろん、お前と一緒にいる時間があるだけでも俺は幸せだけど」



「…尋斗…」


「お前と出逢えた事が何よりの幸せだから。持病が悪化したって、まだチャンスはあるから諦めんな!」


「…うん…」




俺達は抱きしめ合った。


俺は毎日病院に足を運んだ。




「尋斗…いつもありがとう」


「えっ?あたり前の事だろう?俺はお前の彼氏なんだから。少しでも一緒にいたいと思うんだから」


「そうだね……ねえ…尋斗…」

「うん、何?」

「私が死んでも…次の恋はしてね」


「えっ?…エリカ…?何言ってんだよ…!辞めろよ…!そんな事言うの…お前は、俺とこれからもずっと一緒に過ごしていくんだからな」


「ありがとう…でも……約束して欲しい」


「……エリカ……」


「ねっ!約束」


「…分かった…約束な」

「うん、絶対だよ!」

「ああ」

「良かった……っ!」



「エリカ?」



エリカが苦しそうに胸を押さえた。


俺はナースコールを押す。



医師や看護師が慌ただしく病室に入ってくる。



テキパキ対応していく。



「……………」





俺は彼女が助かるように


とにかく願った


これからも


ずっと


二人で過ごせるようにと……




だけど………





俺の願いは





届かなかった………







ピーーー…



心電図の音が病室に響き渡る。




「…エリ…カ…?」



「……………」


「…………」


「……」




「エリカっ!」






信じたくなかった……



さっきまで



話していたのが



嘘みたいだった……



今にも



起き上がって



俺の名前を



呼んでくれるような気がした




もしかすると



彼女は



知っていたのかもしれない



自分が死ぬ事を ――――



だって彼女は



永遠の眠りに



ついたのだから ―――――







『I'll never forget you. I LOVE YOU』

『Eternal memory forever in my mind』





ボチャン……



海にメッセージを入れた瓶を投げ入れる。





「…エリカ…次の恋なんて…出来ねーよ……。…お前以上のイイ女なんているわけねーだろ?…でも…いつか現れた時、お前に紹介する。約束は…守んねーとな…」




そして俺は日本に発った。



とある家のインターホンを押す。




「はーい」




玄関のドアが開く。


俺と、そう変わらない女の子が出迎えた。




彼女は


石本 志須霞。



これが事の始まりと、俺達の出会いだった。
























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