第8話 かけがえのない存在

それから一ヶ月が過ぎた。


ある日の学校帰りの事だった。


ゆっくりと付き合っている彼が、とある店に友達といる所を見掛けた。


声をかけようと思い近くまで寄ると ――――




「で、今の彼女、顔と性格のギャップが違い過ぎてマジ驚いたんだけど、正直きついかも?だから別れたくても別れられない感じ?」



彼氏が私に対しての悪口を言っている事に気付き足を止めた。



「女の恨みって怖そうじゃん?別れたら許さないとか逆上されたらさ~」


「確かに、今の世の中、怖いからなぁ~」


「他高生だから放っておけば良いような気もしたけど……さすがに学校に押し掛けられそうだし」


「それは……きついなぁ~待ち伏せ……」




バシャ

私は彼等二人に水をぶっかけた。



「冷てっ!」

「何すんだよ!俺までふざけんな!」



ガンッ

テーブルの上に思い切りコップを置いた。




「一人より二人が良いんじゃない?」



「………………」



「性格悪くて悪かったな!ギャップが違うから何?女の恨みが怖くて別れられない?ふざけんなっ!男だったらハッキリ言えば良いじゃん!私は逆恨みとかしないよっ!」



「………………」


「……私よりも良い子見つけなよ……私から別れてあげるから……正直……私も…他高生同士だったから不安だったんだよね……それじゃ…」




私はその場から去った。



店を出てぼんやりと歩いていると ――――




ドンッ


誰かとぶつかり地面に転倒する私。




「ってーーっ!何処見て歩いてんだよ!」

「…すみません…」



そう言いながら立ち上がり去り始める。



「おいっ!女っ!待ちなっ!」



グイッと思い切り肩を抱き寄せられる。



「な、何ですか?」

「俺達、不良(わる)だからさー、簡単に許す訳にはいかなくて」

「えっ?…意味…分かんないんだけど?」



ドンッと私は何とか押し退け走り去る。




「おいっ!追えっ!」



私の後を追う彼等。


しかし、すぐに3人に取り囲まれた。




「………………」



ジリジリと歩み寄る彼等。



「………………」




ガシッ

肩を掴まれ抱き寄せると手で口を塞がれ引摺られるように人通りのない路地裏に連れて行かれた。




≪かなわないよ……≫

≪もう……終わりだ……ついてない……≫



ドサッと3人掛かりで押えつけられ暴れ抵抗するもかなうわけがない。



「………………」



「どうせ初めてじゃねーんだろうし」



私は首を左右に何度も振る。


引き裂かれる制服。



≪や、やだ……辞め……≫




一気に私の体を引き裂くような痛みが広がる。



「った……」



「意外!悪く思うな!運が悪かったなとしかないよなぁ~?」



「………………」



私の体は痛みだけがあり、その後の事は一切覚えていない。



ふと目が覚ます私。


あれから、どれ位の時間が経っているのだろう?



「………………」



無惨になった制服を見つめる私。





女に生まれた後悔と悔しさが残る。



私は涙が溢れた。




「……尋…斗……」



私は携帯を手にとる。




『何かあったら俺が傍にいるから』



尋斗の言葉が脳裏に過る。



「もう……尋斗は……家かな?家だよね……」



私は尋斗に連絡をする。




「もしもし」

「…尋…斗…?もう……家……だよね……」

「……今?ああ……つーか電話なんて珍しい。家に帰ったら沢山声聴けるのに」

「……そうだね……ごめん……切る…」

「切るな…」

「えっ?」


「…大丈夫か?」

「…えっ…?…尋斗…?」




私は尋斗の問いかけに疑問に思った。



『大丈夫か?』



どういう事?




~ 尋斗 side ~



あれは数時間前に遡る。


偶然に見掛けたテーブルを囲んで座っている二人の他高生の男子生徒に水をぶっかけて悔しそうに店から去る志須霞の姿。


俺の偶然、その店にいた為、すぐに後を追ったが見失った。


しばらく探していると反対側で柄の悪そうな3人に取り囲まれた志須霞の姿を見掛けた後を追うものの見失う。


二回も見失うのはショックだった。


その後、俺は何となく嫌な予感がしていた。


しばらくして路地裏から志須霞を連れて行った奴等が出てきた。


俺はすぐに向かったが志須霞は気を失っていた。


俺は助けられなかった事に凄く悔しくて自分を責めた。


本当は、その後すぐに連れて帰ろうと思ったがまだ明るい中、連れて帰るのは危険だと思い俺は見張るように近くで待機し、志須霞からの連絡を待っていたのだ。


傍にいても良かったが、誰かが中に入って来たら逆に危険のリスクが高い気がした。


そして今を至っているのだ。





「…大丈夫…?って…尋斗…どういう…」

「…俺…まだ家に帰ってなくて…」

「…そう…だった…んだ…」



「………………」



「……行っても…大丈夫か?」

「えっ…?…行っても…って……?」

「待ってな」



そう言うと電話を切ったのか





プーッ……


プーッ……



という音が私の耳に入ってきた。




「…志須霞……」



ビクッ


「そっちに行っても平気か?」

「…尋…斗…?」

「……ごめん……助けてやれなくて……最低だよな……」




私は首を左右に振る。



「尋斗…お願い…傍に来て…」

「志須霞?」

「尋斗しか…いないから…お願い…尋斗……私の……傍に……来て…抱きしめ……」




グイッと尋斗は抱きしめた。



ビクッ



「…大丈夫…何もしないから…ごめん……本当ごめん……!…助けてやれなくて……何も出来なくてごめんっ!志須霞っ!」



私は首を何度も左右に振り、抱きしめ返した。




「尋斗ーー……」



私は涙が溢れる。


尋斗は更にギュウッと抱きしめ返した。



「……一緒に…帰ろう……志須霞……俺達の家に……」



私はゆっくりと頷いた。




私達は帰る事にした。







ねえ尋斗


私にとって尋斗は


頼りになる存在


何かあった時


必ず傍にいてくれる


かけがえのない存在だって


そう言える


きっと尋斗の


心遣いだったんだよね……



尋斗の気持ちが


何となく


伝わっていた



尋斗……


こんな事あったけど


自分を責めないで良いから……


あなたがいてくれたから




だから……


ありがとうと言わせて―――































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