第121話 みんなに呼び掛ける。しかし……
突然の報告に、私は飛び上がりそうなくらい驚愕した。
「何、スラム街で現地人と亜人達が衝突?」
昼食の後、ソニータと会談をしているときに、彼女の秘書の人がそう告げてきたのだった。
「規模は? その後どうなったの?」
慌てて問いかける。
話によると、スラム街でも素行の悪かった亜人の人物が人間の子に殴り掛かった。
それが発端でその場全体を巻き込んだ大騒動となり、周囲の人たちも日ごろの不満からかこの暴力行為に便乗。
気が付けば止めようがないくらい街全体を巻き込んだ大騒動となったらしい。何とか時間が経ったこともあり、今は落ち着いて来たものの、人間と亜人の中で大きくわだかまりができているとか。
ソニータが私の方を向いて、コクリとうなづいた。
「急いで対策を考えないと大変なことになるな」
「そうね。みんなを集めてみましょう」
「分かった」
この後の予定は──確か大臣同士での会議だ。
会議はこの後。ほかの大臣たちと出会うチャンスはある。
会議が終わったら、みんなで集まって緊急会議を開いた方がいいかな。
休憩時間かなんかに呼び掛けてみよう。
そして、宮殿で一番広い会議室で各大臣たちが集まった会議が始まる。
一番上座の席でソニータがいろいろな議題を話す。
他国との外交関係や、予算の使い道。兵士に関する議論。
もちろんこれも国家として重要な任務だ。
私も、手渡された資料を元に話を聞いたりいろいろ意見を言ったりする。
手抜きをしているわけではないが、どうしても昨日のことに意識が行ってしまう。
ちょっと、もどかしい気分になる。
「とりあえず、休憩の時間だ」
この場の雰囲気が、いったん和やかなものになる。しかし、私にとっては休息の時間ではない。
すぐに、重要な大臣たちのところに行って、昨日起った暴動について説明。
そのことについて、これから緊急で会議がある。
街の一大事なので派閥争いや政局争い抜きで協力してほしい。
そう一人一人話かけてみた。しかし──。
「は? いいよそんなこと、どうでもいいし」
「ごめんな。このあと支持者たちのパーティーがあるんだ。また今度な」
有力貴族たちはまるで他人事のように、色々な理由をつけて断ってくる。それもどうでもよく、後回しにしてもいいような理由で。
誰一人集まってくれない。
何というか、消極的なのだ。
予想しなかった事態に言葉を失う。確かに、彼ら特権階級にとっては一般層や貧困層のことなんて関心が無いかもしれない。
それでも、ここまで他人事だとは……。
(まあ、彼らにとっては一般人の事なんて他人事なんでしょうね)
センドラーの言葉に大きくため息をつく。そんな事をしている間に再び会議は始まる。
ソニータを中心にいろいろ話し合いが行われるが、突き付けられた現実になかなか会議に集中できない。
会議が終わった後ソニータのところに行った。
「やはり、センドラーもそう思ったのか」
「当たり前じゃない。本来だったら、会議を後回しにしてでも対応しなくてはいけない問題だもの。本来なら、総動員で問題に取り組んでもいいくらいだわ」
とはいえ無関心である上仕方がない。例え無理やり連れだしたところで効果は薄いだろう。見て見ぬふりをしたり、下手をすると足を引っ張るような真似をされるのがオチだ。
そもそも関心が無いのだから。
私たちで、何とかするしかない。無理に連れ出したところで、逃げ出して戦線が崩壊するのがオチだ。他の人にも聞いてみたのだが、結果は悲しいものだった。
「別にいいじゃん。仲間割れしてもらわないと。一致団結でもして俺達に立ち向かってこられたら困るからな」
「あんた、本気で言っているの?」
「だって、めんどくさいんだもん。それでいて、俺達に何の利益もないし──変に動いて、有力貴族たちに目をつけられても迷惑だしな」
他人事といった感じで、相手にしてもらえない。けんもほろろに追い返されてしまう。
とにかく、私たちだけでも動かないと。
すぐに、服を着換え市街地へ。
再び、ラヴァルと出会ったあたりの治安が悪そうなエリアに到着。
手掛かりはない。ただ、街を実際に見てみればいろいろわかるとは思う。
街を見ながら、やはり雰囲気が悪くなっているのを感じた。
人間たちは亜人のことをじろじろ見ているし、亜人達の方はそれを警戒しているのかどこかよそよそしい様子。
キョロキョロと周囲の視線をとても気にしていた。
先日行った時と比べて、ピリピリとした雰囲気が流れている。
(雰囲気、悪くなってるわね)
(そうね)
雰囲気だけじゃない。道に落ちているごみも増えていて、治安が悪くなっている。
やっぱりそうなっちゃうよね……。
「とりあえず、色々聞いてみましょうか」
以前にも話したドライフルーツを売っている露店のおばさんに、気さくに話しかけてみた。
「うっす。オレンジちょうだい」
「あいよ」
代金を受け取ると、さっそく聞いてみる。この前よりも、どこかテンションが低い。気にしているのだろうか。
「おばさん。昨日は乱闘騒ぎだったんだって?」
「そうねえ、困っちゃうわ。商売にも影響出ちゃうし」
「そうなんだ。どんな感じ?」
「治安が悪くなるとか、一度悪いことが起きるとそういった人を引き寄せちゃうとかいろいろあるけど、お客さん自体がこのエリアを避けちゃうのよ。他のエリアで商売するにしたってその人のテリトリーを荒らすことになっちゃうし──」
右手を頬に当て、困ったような表情で答えはじめた。
私は、買ったオレンジのドライフルーツをかじりながら答える。
「なるほどね。死活問題ってことね」
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