第118話 見張り、それからの──

 数日後、私は次の行動に出た。

 この国がどんな境遇にあろうと、私は折れたりしない。


 メイン通りから外れた、小汚い小屋が立ち並ぶ通り。

 以前ラヴァルが住んでいたと同じ、貧困層が住んでいるエリア。


 しかし、あっちは亜人の人が多かったのに対してこっちはほとんどが人間だ。

 それと──。


(みんな私のこと、にらみつけてくるわね)


 センドラーの言葉通り、すれ違ったり目線があったりするときがあったのだが、そのたびに変な目でじろじろ見られたり、にらみつけられたり──。


(なんていうか、およびじゃないというのはわかるわ)


 確かに、私の今の服装は城下を歩くように質素なシャツとロングスカートとシンプルなものにしてある。とはいえ、ボロボロだったり汚れていたりしている服、見るからに痩せこけていそうな人。そんな人が当たり前のように歩いているスラム街では浮いてしまっているのは確かだ。



 まるで、私がよそ者になっているみたいだ。お前なんかが来る場所じゃないと、言われているような感じ。


 取りあえず、無視するしかない。大通りから細い道を左に行って突きあたり。

 しばらく歩く。


(あの建物)


 再び広めの通りに出て正面にある、レンガ造りで狭めの2階建ての建物。ガルキフから聞き出した所だ。

 見つけた、目的の場所。



(で、これからどうするの?)


 センドラーが腕を組みながら聞いてくる。確かに、場所がわかっただけでは不十分だ。

 該当の人物を見つけて、黒幕をあぶりださなきゃいけない。


(そんなの、決まってるじゃない)


 そう自信満々な笑みを浮かべて、自分の足を指さす。センドラーは、呆れてフッと笑った。


(張り込みってことね。あなたらしいわ)


(その通り!)


 そう言って、満面の笑みで親指を立てる。地道で、いつまで続くかわからないけれど、これ以外にない。



 道ごしに、反対側にある家の影に隠れる。

 住人とかち合っちゃったけど、お願いしたら大丈夫だった。


「お兄さん。目的があってここに居させて。何もしないから」


「ああ、いいけど……」


 壁に体を預けると、センドラーが隣に体育すわりになる。


(わかったわ。疲れたら変わるから、私はその時のために寝ておくわ)


 そしてセンドラーは壁によっかかって目をつぶった。


 まあ何かあったら頼るから、今は休んでて。そして壁越しに目的の建物を見ながら部屋に入る人物が部屋に入るのを待つ。


 その後も頑張って見張りを続けた。

 しかし……。


 ふぁ~~あ。


 さすがに夜も遅くなってきて、眠くなってきてしまった。

 目がかすんでうとうとしてくる。これからが本番だというのに。


 何とか我慢しようと目をこすっていると……


 スッ──。


 誰かが右肩にスッと手を触れてきた。


(替わるわ。あなたは後ろでゆっくりと休んでいて)


 そう言ってセンドラーが私の前に出る。じっと、建物の方を見つめながら。


(ありがとう。じゃあよろしくね)


 そう言って私は体を入れ替える。

 壁際に力を抜いて横たわると、疲れ切っていたのかすぐに私は夢の中に入ってしまった。


 センドラーがいて、本当に助かった。安心して肩を預けられる人がいるというのは、本当に大きい。


 いつも、本当に感謝だ。





(秋乃、起きて)


 脳裏に話しかけられたその言葉に、私は目を開けてセンドラーの方を見た。


(建物に、人が入った。行きましょう)


(わかった、ありがと)


 疲れがたまっていたのか、よく眠れたようでとてもすっきりしている。全てセンドラーのおかげだ。


 私は立ち上がって、センドラーの後をついていく。


 建物からいったん夜道に出て、早足で目的の場所へ。


 コンコンとノックをして一言。


「入るわ。いいわね」


 中の人は何も答えない。無言で、重い雰囲気がこの場を包む。


 センドラーは回答を待たずに強引にドアを蹴っ飛ばす。鍵は蹴った瞬間に壊れて床に落っこちた。


「こんばんは」


「何の用だ。お呼びの人物ではない方のようだが──」


 大きめのランプが部屋全体を照らす薄暗い部屋。

 大きな机に、壁際にはびっしりと本棚。机の上には、本や書類が積み上がっていた。


 床は、埃が待っていて薄汚い。まあ、違法行為に手を染めているということはこういったことには無頓着──なのだろうか。


 眼鏡をくいっと上げて言葉を返して来る、

 冷静な口調。サングラスをかけていた、髭を生やしていて長身な男。

 鋭い目つきをしていて、冷たいような、重い視線を私に向けている。


「名前は? 私はセンドラー」


「知ってる。俺はビング」


「早速だけど、ここで何をしているのか、聞かせてもらおうかしら」


 そう言って腰に手を当てて詰め寄る。もう御託なんていらない。ここにある書類を調べれば、黒い証拠なんていくらでも出て来るだろう。


 こいつの言い訳や理由なんて興味はない。


 ビングは、余裕ぶった表情で手を広げて言葉を返す。


「ああ、センドラーか。流石に感がいいな。この場所までたどり着くから」


「褒めてもらってもなんも嬉しくないわ。御託はいらない、調べされてもらうわ。あなたの悪行を」


 ビングは、サングラスに手を抑えたまま答えない。

 しばしの時間が経ち、ビングは入口の方に視線を向けて言葉を返す。



「もうすぐ来る。お前が求めているような人物がな」

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