第113話 惹きつける力
「嘘だろ……ラヴァルさんが、負けたなんて──」
「マジかよ、じゃあ俺たち、捕まんのか?」
周囲の取り巻き達は、ざわついた雰囲気で互いにきょろきょろと視線を泳がせている。
明らかに動揺しているのがわかる。
(これから、どんな報復が来るのだろう──そんなことでも考えているんでしょうね)
センドラーの言う通りだ。今まで、そうしてきたんだろう。
逆に負ければ、奪われる。
だから、彼が負けると自分達も奪われると感じてしまっているのだろう。
大丈夫。そんなことは、させないから──。
一度深呼吸をしてから柔らかい表情を作る。
そして、人々の方を向いて話し始めた。
「みんな、話を聞いて」
周囲に視線を配りながら話す。もちろん、私の言葉を完全に信じる人なんていない半信半疑という感じだ。
構わない。それも織り込み済みだ。
「なんとなくだけど、分かるわ。あなた達がどんな境遇で育ってここに来たのかを」
「そんな虫のいいこと言って。騙されっかよ」
そんなヤジなどに、動かされる私ではない。
「最初っから信じてもらえるだなんて思ってない。でも、心配しないで。私達は、絶対にあなた達を、見捨てなんかしたりしないから」
その後も語り続ける。彼らへの想いを。その結果、徐々にひそひそと、半信半疑といった感じで互いに話している。
もちろん、すぐに信じてもらえるだなんて私も思っていない。
私が街を作っていく中で、徐々に良くしていく形で──少しずつ信じてもらえればいい。
そして、私の必死の呼びかけに、徐々に表情が変わり始めた。
(あんた、演説上手いわね相変わらず。笑顔で、ちゃんとみんなに視線を配って……)
(別に、みんなに私の想いを聞いてほしくて、自然とこうなっただけよ)
あなた達も見捨てたりしない。だから人々を傷つけるのをやめてほしい。そんな思いで必死に訴えかけた。
彼らは、少しずつではあるけれど、心を開いていく。
その証拠に、彼らから飛んでくるヤジが少しずつなくなっていくのがわかる。
視線や目つきも、最初は疑うような目つきをしていたりそっぽを向いていたりしていたのが、次第に私の方を向くようになっていく。
気が付けば、ここにいるみんなが私の話を食い入るように聞いていた。
(本当に不思議ね、あなたの人を引き付ける力って)
(別に、真正面からみんなと向き合っているだけよ)
(それが誰とでもできるということが、あなたの強みなんだと思うわ)
(へへ……ありがと)
センドラーの言葉に、思わず表情が緩む。真正面からそう言ってくれると、やはりうれしい。
そして、みんながしっかりと話を聞いてくれて、演説は終わった。
みんなゆっくりとした足取りで、この場を後にしていく。その後、演説が終わると話を聞いていた人の一人が問いかけてくる。
「信じて、いいんだな」
私は、笑顔を作ってウィンクして答える。
「構わないわ。だって、この地に住んでる人ですもの。みんな、私が守って見せるわ。だから、こんなこともうしないで」
その言葉に、がっくりと肩を落とした男の人たち。
「わかったよ」
男の人たちは、とぼとぼとこの場を去ったり、覇気のない表情でこの場に座り込んだりしていた。一番強いラヴァルを倒したということで私には向かうつもりはないのだろう。
取りあえずは、大丈夫だ。ずっと続くとは思ってないけど。
(なんていうか、人を惹きつける力がすごいわね……あなた)
(別に、私なりに一生懸命語り掛けただけよ。自分の、彼らに対する想いをね)
(そう。でも、これで終わりじゃないでしょ。あいつと、話さなくていいの?)
センドラーがちらりと、横に視線を向けた。
その先にいる一人の人物を見て、大きく息を吐く。
「それもそうね」
そして私は、ゆっくりとその人物の方へと歩いていく。ウィンクをして、話しかけた。
「お待たせラヴァル」
私は、目的の人物ラヴァルのところに歩いていった。
「なんだよ。イヤミか?」
壁際に座り込んだラヴァル。見るからに不機嫌そう。そこに、ゆっくり歩いて近づくと、倒れこんでいるラヴァルに、膝に手を当て話しかける。
「言葉、聞かせてほしいな」
優しい口調で話しかけ隣に映ろうとすると──。
フラッ──。
身体がいうことを聞かなくなった。フラフラになって、倒れこむようにして座り込む。
勝ったとはいえ、体力も魔力も使い尽くしてフラフラ。
(もう、限界よ秋乃)
センドラーの言う通りだ。壁によっかかって、大きく息を吐いた。
「なんでこっちに来るんだよ。敵同士だったんだぞ。離れろよ」
ラヴァルがシッシッとばかりに嫌そうな表情をするが私は気にしない。
ニッコリと笑顔を作り、言葉を返す。
「もう戦いは終わり。敵同士じゃないわ。腹を割って話しましょ」
そう言って右目をウィンクする。ラヴァルは……嫌そうな顔をした。
「──うっとおしいな。で、何が言いたいんだ」
「お話とか、色々聞かせてほしいな」
私は笑顔を作ってラヴァルをじっと見る。ラヴァルは、観念したくれたのか大きく息を吐いて答え始めた。
「俺は、貧しい場所で生まれた。薄汚いぼろ衣服。ロクに食べ物も与えられなかった。両親は俺のことをただ飯ぐらいとしか考えていなく暴力を受け、毎日スラム街でうろついてはケンカに明け暮れていた。ある日、そんな俺の腕を聞いた1人のブローカーに出会った。すげぇ太って、いかにも成金ってやつ」
「そいつにホイホイ、ついて行っちゃったのね」
ラヴァルは、大きく息を吐いて遠くの空を見つめている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます