第109話 戦って、勝つ。それだけ

「そんなことしないわ。どうせ、抵抗するし、言ったって無駄でしょ?」


「そりゃそうだ」


「あんたが私に勝つ。戦って、語り合う。それだけ──」


 自信満々に、言葉を返す。

 たぶん、どれだけ口で言っても、分からないと思う。だから、真正面から彼らを受け止めて、戦う。これが、一番心が通う語りだと、私は思う。


「戦って、語り合うしかないわ」


 ラヴァルは、フッと息を吐いた後ニヤリと笑みを浮かべ、言葉を返して来る。


「今までもいたよ。『こんなことはやめなさい,』とか『故郷の両親は』泣いてる。──とか、紙1枚より薄っぺらいことを言うやつらが──。みんなボコボコにしてやったけどな。そいつらよりかは、幾分ましといった所か」


「そうね。そんな言葉で、あなたが変わるとは思えないもの」


「そうだな。まあ、せいぜいうまく命乞いをするんだな」


 そう言ってラヴァルは剣を召喚。トントンと、肩をたたきながら、後ろに視線を配った


「待ってろ、周りを呼んでくる」


 たぶん、まずは取り巻きに戦わせて、強かったら直々にってことね?

 だけど大丈夫。


「無駄よ、あんたの手下は、すでに倒してあるわ」


 そう言葉を返して、私は入口で倒して来た奴らの剣を地面に落とした。

 ラヴァルは、剣に視線を奪われはっとした表情になった。


 スラム街の入り口。


 服はボロボロ、体は汚れていて痣があったり人相が悪くて明らかに悪そうなやつらが。何人も突っかかってきた。


「なんだよ姉ちゃん。ここは俺達の縄張りだぜ!」


 みんな鎌や斧、ナイフを持っていたりと見るからに凶暴そうなやつだ。


 みんなが驚く。


「ほう? 俺達の言葉がわかるのかよ」


「うん。だって、あなた達に用があるんですもの」


 自信満々にそう言うと、獣人の一人が襲いかかてくる。


「それなら、俺達を──倒してからにしな!」


 殴り掛かってくる獣人。私からは──。


「この程度? ぬるいわ」


 まるで止まっているかと感じるくらい、遅く見えた。

 殴り掛かってきた拳を交わし、一気に懐に飛び込む。


「こいつ」


「あいにく、そこら辺の奴になんか負けるつもりないから!」


 そして、男の服のすそを掴んで、後ろにある壁に向かって投げ飛ばした。


「調子のんじゃねぇぞぉぉ!」


 他の奴らはそれを見て逆上、一気に襲い掛かってきたが──。


「悪いけどあんた達とは、経験が違うのよ」


 笑みを浮かべて言葉を返し、向かってくる敵を掴んでは投げ、攻撃をかわしてはカウンターを浴びせる。


 いくら多少力が強くたって、魔法を使えないしただ殴りかかってくるだけ。

 それでは相手にならない。男たちは次々と投げ飛ばされ、殴られ倒れこむ。ものの数十秒で全員を片付けた。

 襲ってきた人たちを一瞬で倒したのだ。




「どう? あんたの手下じゃ相手にならないわ。それとも、もっと倒した方がいい?」


 ラヴァルは、私をじっと私を見つめて、何も言わない。周囲の人たちはキョロキョロと互いに視線を合わせ、あたふたしている。

 そして、動揺を隠せないままラヴァルに話しかけた。


「どうせまぐれですぜ」


「そうっすそうっす。やっちゃいましょうよ」


「よく見たらスタイルいいし、おっぱいでけー! ボコったら、やっちまおうぜ!」


 周囲の奴らは好き勝手に言う。そして取り巻きの一人が襲い掛かろうとした。


「このクソ女!」


 その時、ラヴァルが手を出し襲い掛かろうとするのを止める。


「ラヴァルさん、こんなの俺で十分──」


「お前じゃ無理だ。俺がやる」


 どこか 男も恐怖を感じたのか足を止めた。ラヴァルはニヤリと笑い、剣を肩に背負う。鋭い目つきで、ギロッとにらみつける。


 雰囲気が、一気に変わった。本物の恨みと、殺気を秘めている。



「清潔そうだな。綺麗な服を着て、いい飯食ってそうだな」


「だったら、どうだっていうの?」


「なら話は早い。俺達をこんなとこまで落とした報い。きっちに耳をそろえて返してもらうぜ」


「報いね……。よほど恨みを抱えてたんでしょ。私達に」


「良く分かんじゃねぇか」


「わかるわ。そもそも話も聞いてもらえないんでしょう?」


「何でわかるんだよ」


「私があんた達の言葉でしゃべった時、周りの奴らみんな驚いていたわ」


「いい勘してるじゃねぇか」



 彼らは少数民族に近い亜人の人たち。

 そこでは、発展が大きく遅れ貧しい暮らしを強いられていたと来ている。


「商人に言われたんだ。リムランドに来れば、たらふく稼げるってな」


「それで、この地に来たってことね」


「ああ……。そこで、俺達は現実を思い知らされた。俺達は奴隷のように扱われ、こうして堕ちていったというわけだ」


 考えれば考えるほど彼らに同情する。



 どうしてもここに基盤がない以上弱い立場になってしまう。


 そもそも言葉さえ通じないのだから、まともなコミュニケーションなんて取れるわけがない。


 そんな人に与えられる仕事というのは、どうしても賃金が低かったり、危険だったりする。

 まあ、だからこそリムランドではやり手がいなくなり、闇商人を通して人をだましてやらせるなんてことにあるのだが──。


「なるほどね。あんた達に事情があるっていうのはわかったわ」


(まあ、許されることではないわ。それに、どれだけ同情したって彼らには届かない。でしょ?)



 センドラーの言う通り。初対面の私が安っぽい言葉で語り掛けたって、届くはずがない。

 それなら、私がやることは一つ。


 彼らの全力を受け止めて、勝負に勝つこと。

 それだけだ──。

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