第108話 ライナと一緒。そして、スラム街へ

 そして、キスの時間となる。ライナと向き合って肩を、優しくつかむ。


「じゃあ、行くよ──」


「……はい」


 ゆっくりと、ライナの顔を近づけ──。


 唇をつけ合う。初めてではない。しかし、甘酸っぱくて、柔らかい感触。

 ライナも、だいぶ慣れてきたのかいきなり大胆に唇をついばんで、くっつけてくる。

 そしてほどなくして、舌を入れてきた。

 舌を絡めあい、ライナの唾液が、私の口の中に入り込む。

 私がそれを許した瞬間、ライナは大丈夫だと感じたのか、どんどん唾液を送り込んできた。


 甘くて、口の中がとろけるような、感覚に包まれた。ライナの唾液がまるで私の欲情を誘っているかのように、まるで媚薬のように感じる。


 さらに……。


 さわっ──。


 なんと私の胸に触れてきたのだ。


 プルプルと、大きな私の胸にライナの柔らかい手が振れる。細くて滑らかな指が柔らかい胸に沈んでいく。


(ちょっと、流石にやりすぎよ。止めて止めて!)


 センドラーが額をピキピキさせて話しかけるが気にしない。


 そんな気には、ならなかったからだ。まるで宙に浮いているかのような、ふわふわした気分。

 理性を保っていないと、欲望のままに、一線を越えてしまいそうな気分。


 二人の、愛し合うような時間。トロンとした、完全に出来上がっている表情のライナ。

 心の底から、幸せそうだ。

 そして、唇が離れる。


 ライナはよだれを舌で吹き取って口の中に入れると、にっこりと笑みを浮かべ、私を見つめてきた。


「応援してますからね、センドラー様」


 ライナが、にこっと笑顔を見せる。


「もう、やりすぎ!」


「えへへ──私も、最初は思ったんですけど口づけをしているうちにいいかなって、思っちゃいました~~」


 気持ちが乗ってきたって訳ね。まあ、たまのご褒美だからいいか──。


「でも、私のことを想ってくれて、本当に嬉しいです。これからも私、センドラー様に仕えさせていただきます!」


「これからも、よろしくね。ライナ──」


 

 そうささやきながら私はライナのぬくもりを全身に感じる。あったかくて、柔らかい。ぬいぐるみみたいで、本当に気持ちいい。

 髪からは、柑橘系の香りがした。恐らく、香水がかけられているのだろう。ずっと、抱きしめていたいって思えるくらいだ。


 多分だけど、そう言った気づかいがライナの魅力なんだと思う。

 ライナとなら、どんな危険なことだって乗り越えていける。そんな気がした。

 これからも、私の(政務的な)パートナーとして、よろしくね。


 そんな事を考えながら、夢の中に入って行った。






 翌日。


「じゃあ、行きましょう」


(そうね、逃げるわけにはいかないもの!)


「センドラー様。行ってらっしゃい」


「いってらっしゃいニャ!」


 ミットとライナが笑顔で私を見送ってくれる。

 私は手を振って、自信に満ちた表情で街へ。


 不安がないと言えば、そんなことはない。


 これから先、完全なアウェー、敵地へと行く。

 どんな罠が待っているかわからない。


 ちなみに、ソニータやライナは今回連れて行かない。彼女まで、守り切れる自信がないからだ。それほどまでに、強い相手だと感じた。あのラヴァルというやつは。


 危険な場所。でも、苦しんでいる人がいる限り、私は立ち向かわなきゃいけない。

 例え、私のみがどれだけ傷つこうとも──。


 助けを、求めている人がいる限り──。

 頬を両手で軽くパンと叩く。



 覚悟を決め、スラム街へと向かう。


(予想通りの光景ね)


(うん)


 スラム街に入ってしばらく。センドラーの言う通り、スラム街の光景は──私が予想した通りの物だった。


 ボロボロの服を着た、目つきが悪そうな人たち。

 すれ違ったり、目が合ったりするたびに私達のことをにらみつけたり、がんを飛ばしたりしてくる。


 それと、やはりというのだろうか。亜人の割合が多い。

 言葉や文化、そして他国から来たので何かあった時にかけ揉める場所がないというのが影響しているのだろう。


「おい嬢ちゃん。こんなところへ何の用だ? 」


「金かしてくれよ。持ってんだろ? それとも、体にするか?」


 時折私に絡んでくる奴がいた。


 脅して、金でもせびろうとしている。

 ──が。


「いでででででででででっ!」


 私には何も怖くない。もっと強い敵、もっと腕のあるやつらと、退治している。突っかかってきた所に、投げ飛ばしたり──。ケンカになっても、帰りうちにしたり。


 建物の中は埃だらけで、壁にはひびが入っている。流石は、街で一番治安が悪いと言われている場所だ。


「あんたが、スラム街を仕切ってるラヴァルね」


「お前、俺達の言葉がわかるのかよ」


「ええ、南方にいる獣人の一種でしょう。完ぺきではないけれど、日常会話くらいは、出来るわ」


 そう、南の隣国の言葉だが、私には理解できる。隣国だけあって、怪談をしたりすることを想定して、獣人たちの言葉を勉強したことがあった。

 以前リムランドにいた時。使うかもしれないと思って簡単な言葉だけでも、話せるくらいにはなった。


 そのことを思い出し、何とか言葉を返す。


「で、俺達をどうするつもりだ? ひっとらえて強制送還か? それとも皆殺しか?」


「そんなことしないわ。どうせ、抵抗するし、言ったって無駄でしょ?」


「そりゃそうだ」


「あんたが私に勝つ。戦って、語り合う。それだけ──」

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