第104話 絶対に、何とかする

「だからって、そんなちゃちな斧を持って立てこもっても、何の解決にもならないわ。ちょっと優秀な奴に捕まって流刑所送りがオチよ」


 言葉では理解していても、感情が納得しないのだろう。

 正論でいくら投げつけたところで、全く解決することはないだろう。




 なんとか、いい方法はないかな……。


 国王に、言ってやる……。男が言ったセリフを思い出し、閃く。


 そうか、その手があったか……。

 これなら、この男も想定してないし意表をつける


「ちょっと待ってて」


 私は歩いて群衆の間へと入って行った。とある人物を呼び出すために……。

 そして、しばらくたつと、男の元へと戻ってくる。


 私がとある人物を連れてくると、それを見た男は──表情を変えた。


「わかった、話を聞こう──」


 そう、私が呼びだしたのは──ソニータだ。

 理由は簡単。あそこまでこの国を恨んでいるなら、直接吐かせた方が早いからだ。


 彼の、今の状況に対する怒りを。もちろん、手出しはさせないように私が間に立つ。


 ソニータに相談したときはさすがに大丈夫かなと不安に思った。

 しかし、ソニータの国民への心自体に問題はなく、ソニータ自身も、ぜひ合わせてほしいと言葉を返して来た。そして、身を隠すためにしていた変装を解いて、ここに立ったのだ。


 周囲の人たちも、その姿を見て大きくざわついている。


「マジかよ……本当にソニータ様だ」


「ああ、パレードとかで見たことがあるからわかる。本物だ」


 ざわついた人たちに反応することもなく、じっと男を見つめながら話しかける。


「私が──国王だ。これが、その証。わかるかい?」


 すっと国王のバッジを見せた。

 私達の家系であることを表わす、金色の王冠のバッジ。


 男も正体に気付いたようで、この場が大きくざわめきだす。


「辛い思いをさせて申し訳なかった。話の方、聞かせてくれ」


 その言葉にしばらく黙っていた男の人。握っている拳が、ブルブルと震えているのがわかる。

 そして、しばしの時間が経つと男は話し始めた。


「俺は、家族たちと、友人たちと平和に過ごしていました」


 ぽろぽろと涙を流し、自分の気持ちを打ち明けた。


「私は、生まれてからずっとラストピアのために働いてきましたそれなのに、それなのに──」


「あいつらに、みんな奪われて──。今では家すら売って、貧しい暮らしをしているんです」


 男は涙をぽろぽろと流しながら語る。

 ソニータは、しばらくの間表情を失っていたが、やがて彼の手をぎゅっと握る。


「す、すまなかった。これから、絶対何とかする。信じてくれ」


 じっと彼の目を見る。真剣な、覚悟を持った目だというのがわかる。

 男の人も、そんな覚悟を感じ取ったのか、特に手出しはしてこなかった。


「約束だ。信じてるからな」


「わかった」


 男の表情から私達への敵意は感じられない。

 取りあえず、一件落着といっていいだろう。


(あんたらしい解決方法ね。やるじゃない)


(ありがと)


 肩の荷が下りた気がして、ほっとした。


 捉えられていた女の人も、頭を下げて俺を言ってくる。

 毛耳を付けた、亜人の女の人。


「本当に、ありがとうございました。このご恩は、一生忘れません」


 甲冑を着た人が周囲をキョロキョロしながら歩いている。

 恐らく、騒ぎを聞いて駆け付けた兵士の人だ。


 右手を上げて、声を上げる。


「警備の人。こっちこっち~~」


 兵士の人がこっちに気が付いて向かってくる。

 そして男の人を縄で縛る。


「ありがとうございます。罪を償ったら、またラストピアのために働きます。このご恩は、一生忘れません」


 言葉を返して来る男の人の表情が、明るい表情をしていた。

 捕まった人間がこんな表情をしていたのは、今が初めてだ。


 私は、ピッとウィンクをして、言葉を返す。


「ありがとう。忘れないで。私達は、いつでもあなた達のことを見ている。だから、もうこんなこと、絶対しないでね──」


「はい、わかりました」


 そして男の人は、兵士の人に拘束されたままこの場を後にしていった。


 その姿を見送った後、大きくため息をついて気を抜いた、その時だった。



「センドラー様、流石です。素晴らしいです!」


 ライナだ。周囲のことも考えず、私に飛びついてきたのだ。


 ほっぺをすりすりしてきた挙句、チュッとキスをしてきた。


 公衆の面前で──。


 それからも、ほっぺをぺろぺろと嘗め回す。こらこら、せめて部屋の中でやってって。

 その姿を見て、周囲がひそひそと話し出す。


「あれ、センドラー様だよね。女の子とイチャイチャしてる」


「へぇ~~そんな性癖なんだ。意外」


 なんか、誤解されてる……。


(ちょっと、誤解されるでしょ! すぐに辞めさせて!)


 センドラーもぴりぴりとさせながら隣から話しかけてくる。

 まあ、今は、無視しよう。


(まあいいじゃない。たまにはこの位)


(もう……しらない)


 額に手を当てあきれ果てたセンドラー。大丈夫、一線を越えるようなことはしないから──多分。

 そんなライナのスキンシップに耐えていると、ソニータが話しかけてくる。

 ちょっぴり、引き攣っているような表情をしている。



 そんな事をしていると、ソニータがこっちに来て、話しかけてきた。


「お疲れ様。その──宮殿に戻るか? あんなこともあったし」

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