第99話 さあ、最後の舞台へ

 ライナが出てきて机にコトッとコーヒーを置く。

 あの後、この騒動の後始末でいろいろと大変だった。



 まずはブルムについて。


 宮殿からは、追放となった。当然だ。国王を裏切る行為をしたうえに、マリスネスにまんまと騙されていたのだから。


 今まで慕っていた派閥の貴族たちからも手のひらを返す様に彼から離れていった。

 今はもう、ナンバー2のヘイグにも見捨てられ、彼を慕うものは


 元々人望がなく、金や権力へのコネで支えられていた仲。それがなくなれば、一気に空中分解していくのは必然だった。


 これからは、領地に帰って人知れず畑でも耕して暮らしていくのだろうか。

 いずれにせよ、もう国政への復帰は絶望的だ。


 まあ、流刑地に送ったり、処刑台に立たせるわけではない。

 怪しい動きが無いように、監視の目を置く必要はあるが、それだけでいいだろう。



 今度はバルティカ。


 カルノさんによって国ぐるみで不正や闇の勢力とのつながりが明らかになった。その事実は世界中に知られ、各地でバルティカとの取引や貿易が中止る事態となり、彼らへの非難が集中砲火した。


 このままでは国が持たないと判断した政府は、カルノさんが指摘したすべての取引を注視。

 様々な面で、財政の危機は国を襲い、再建のために外国に構っている余力がなくなったのだ。

 もう、外への侵略どころではなくなった。


 当然、マリスネスへの手出しも全て中止となった。これにより、マリスネスの平和も、保たれた形となる。


 以前私が演説を行った鉱山も、今は平和な村に戻っているのだとか。





 さらに、ラストピアに帰る前に一度マリスネスへと帰還。戦果を報告した。

 王室で、ペタン、フォッシュと再会。


 二人から、祝福を受ける。


「すごいじゃないかセンドラー。これで、この問題はとりあえず解決だ」


「どういたしまして、みんなのおかげよ。もちろん、あなた達2人も含めてね」


 その表情には、安堵が浮かんでいた。

 フォッシュも安心しきった表情になり、ぺこりと頭を下げる。


「センドラー様、本当にありがとうございます。この恩は、一生忘れません」


 心の底から、喜んでいるというのがわかる。


「そこまでかしこまらなくたっていいよ」


「そんなことはないですセンドラー様がいなかったら、この国はどうなっていたことか。必ず、お礼はさせていただきます」


「それはどうも……」


 とはいっても私はもうこの場所にはいない。

 そして、お別れの時間となる。


「なんかあったら、躊躇なく逃げてこい。しっかりと、かくまってやるからな」


「ははは……考えておくよ」


 ペタンの言葉に、思わず苦笑いしてしまう。

 もう、そんなことが起こることがないと信じたい。

 けれど、こんなことを言われるのは初めてのことだ。


 ちょっと、誇らしげな気分になる。


「これからも、頑張ってくださいね。応援、していますから──」


 最後に労いの言葉をもらって、私はこの地を後にする。

 貧しい国だけあって、これからも一筋縄ではいかないだろう。


 困難も待ち受けているだろう。


 また、協力しあったりすることもあり得る。

 それでも、彼らだったら乗り越えられるだろう。


 正義感が強く、国民への想いも忘れない。そんな、国をまとめるのに必要ともいえる物を持っている彼らなら、心配はいらない。


 今までありがとう。これからも、よろしくね!


 街の人からも、時折話しかけられた。


「センドラーさんだっけ。怖いって噂だったけど、いい人だったんだね」


「そう言ってくれて、ありがとう」


 祝福の言葉。それをかけられるだけで、嬉しい気分になる。


 さらに、コボルトのウェイガンとも再開。

 笑顔で、強く握手をする。


「あんたのおかげで、俺達は居場所を見つけることができた。礼を言うぜ」


「そっちこそ、平和に暮らしてね」


「任せな。もう、あんたの世話になったりしないあらよ。陰ながら応援してるぜ」


 今では、現地の人とも溶け込んで立派に暮らしているらしい。あなた達が平和に暮らせて、なによりだ。


「これからも、平和に暮らせるといいわね」


 そう言葉をかけて、マリスネスを後にした。

 色々あったけれど、分かれるとなるとさみしい気分になってしまう。


 名残惜しい気持ちをしまって、私は帰路についた。




 そして、私達もラストピアとはお別れになりそう。


 いろいろあったけれど、今となってはそのどれもがいい思い出のように感じる。

 そんなとき、誰かがトントンと扉をノックする。


「どうぞ」


 出て来たのは、ミットだった。ミットはラストピアで、私が不在の穴埋めとして作業をしていたため、長い間一人にしてしまった。


 そのせいか、ちょっと困ったような表情をしている。


「どうしたの? ミット」


「ラストピア、いい街だったニャ。お別れするのは、ちょっと寂しいニャ」


「じゃあ、ここに残る?」


 ミットは顔をぶんぶんと横に振った。


「センドラー様と、一緒にいたいニャ。一緒にいて、いろいろ学びたいニャ!


「ありがと」


 ライナも、笑みを浮かべて言葉を返した。


「ミット。これからも、よろしくね」


 こうした私達はリムランドへと出戻りすることとなった。

 王国の首都だけあって、色々な人たちの思惑が絡み合い、それだけ衝突も繰り返すだろう。


 間違いなく一筋縄ではいかない。どんな罠が待っているか、想像もつかない。



 けれど、絶対に手がかりはあるはず。


 この世界を──救うために、行こう。



☆   ☆   ☆


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