最終章 リムランド編
第100話 取りあえず、街を見よう
ラストピアの人たちに別れを告げ、私達は荷物を持って馬車へ。
荒涼とした大地や、地平線まで広がる草原を越えた長旅の末に、ラストピアの地はあった。
「何とかついたわ──」
「そうですね、さすがに疲れました」
ライナが自分の肩をもみながら言葉を返す。
確かに、長旅だった。
前回はあまりに急な事情があったので、カルノさんに無理を言って瞬間転移をしてもらったが、いつもこんなことをさせてもらうわけにもいかない。
あれは、本当に体力や魔力の代償が激しいのだ。
街への城門で兵士の人に証明証を見せてから、街の中へ。
以前より増えた亜人の人々や、さびれている雰囲気のある街を見ながら、宮殿へ。
「お久しぶりです。これからも、よろしくお願いしますね!」
赤絨毯の道。人とすれ違うたびに、笑顔で挨拶をして握手をする。
「センドラー……だよな」
「そうですそうです。一緒に、この国をよくしていきましょうね」
出会う人はみんな、私の変わりように驚いていた。
「明るくなったねぇ。随分変わったねぇ。……」
「こっちにも、色々あったんですよ~~」
変に感づかれても困るので、軽くあしらったが──。
時折、私を見るなり逃げだしたり物陰に隠れる人もいた。
(私達がここでした行いを考えれば、当然よね)
(……うん)
そして、私の部屋へ。以前住んでいた部屋と、同じもの。
その間に誰か住んでいたようで、若干レイアウトは変わっていたものの、面影や窓から見える景色に懐かしさを感じる。
それから、ちょっと休憩を取った後、宮殿の階段を上がり、ソニータの部屋へ。
人とすれ違うたび、すれ違った人たちは私を見るなりよそよそしくなったり、震えたり──。
私が帰ってくると聞いて、みんな警戒しているというのがわかる。
そして、宮殿の一番上。奥の部屋へ
コンコン──。
「私よ」
「入れ」
ドアの奥から聞こえたのは、どこかぶっきらぼうなソニータの声。
やはり、精神的に答えているというのがわかる。
キィィィ──。
ゆっくりとドアを開けて、中に入る。
ふかふかそうなソファーに座り込んでいるソニータ。
私は、その隣に、スッと座った。
「何で隣なんだ……。向かい側に行けよ……」
「いいじゃんいいじゃん。こっちの方が親しみやすいし」
ソニータと会うとき、隣にいてみたいと思っていたのだ。
私達は国王の座を巡っていつも争ってばかりだった。だから、この場くらいは──隣に座っていたい。
ニッコリと言葉を返す私に、ソニータはけげんな表情をする。
「お前──随分と変わったな……」
「それ、ここに来るまでにも、散々言われた」
当然だ。あの時とは違うからこそ、ここに帰ることができたのだ。
そして、侍女の人が入ってきてコーヒーを煎れてくれた。
コーヒーを一口飲んで、香り豊かさに感動。
「やっぱ、このコーヒー美味しいわね。リムランドのは、ちょっと質が落ちるわ」
「ありがとな。まあ、遠い国で高級品になているやつだから、当然だろう」
そして、コーヒーを半分くらい飲み干して、話が始まる。
「じゃあ、話。聞くよ──」
私はソニータの方を向くと、首を傾けて微笑を浮かべる。
「ふう、分かった。話そう──私の葛藤を」
ちょっと、切ないような──悩んでいるようなそんな表情。
「私は、国王になってから──何とか国をよくしていこうともがいている。そして、痛感させられるのだ──自分の力不足さというものを」
「何をやってもなかなかうまくいかない。貴族たちは私のことを置物としか見ていない。互いに利益のために利用し合い、いがみ合い、けん制し合い──国のことや国民のことなどそっちのけで政争争いばかり。見ているこっちが滅入るくらいだ」
「それは、私がいた時と変わってないわね」
「私なりに何が正しいか、考えてもがいているのだがな」
ソニータは両肘をついて顔を追い隠し、言葉を返す。
「これが、私の器なのか──。私は先代の王やお前みたいにはなれないのか──」
相当悩んでいるというのが、わかる。私と敵対していた人物とはいえ、同情してしまう。
ブルムにはまんまと騙され、ヘイグともうまく行ってない。
貴族たちからは置物として扱われ、権威以外何もないと言っても過言ではない存在。
相当、こたえているようだ。
(秋乃、変わって)
(わかった)
そして私は人格を交代。
センドラーは腕を組んで、ソニータをじっと見詰めながら言葉を返す。
「あきらめにるはまだ早いわ」
「──気休めにしかならないな」
ソニータは、センドラーの重圧に耐えきれないのだろう。目をそらしながら言葉を返す。
完全ではないが、半ば位──折れてしまっているのだろうか。
なんとか、力にならないと──。
「とりあえず、現状を確認させて。まずは、この街がどうなっているのか、よく知りたいわ」
そう言うとソニータはゆっくりと立ち上がり書斎の書類へと手を伸ばそうとする。
「何してんの?」
「何って、現状だろう? 今のリムランドの数字を見せようと──」
「そんなのはもう見たわ。私が見たいのは現物。街そのものよ──」
ソニータの頭上に?マークが浮かんでいるように、キョトンとなる。
どうしてそんな言葉が返ってくるか、理解していないようだ。
額に手を当てて、ため息をついた。
「そんな作られた数字じゃなくて、実際の街を見たいってこと。外せない予定、今ある?」
「今は、特にない」
「じゃあ、行くわよ。外についてきて」
そう言って、踵を返してこの部屋から出る。
ライナ、ソニータは後を追うようについていった。
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