第92話 裏切り

(相当煮詰まってるようね)


(当たり前じゃない)


 私は顔を膨らませて言葉を返す。当然だ、ブルムたちを追い詰めるすべが、無くなってしまったのだから。

 センドラーの方は、そこまで考えこんでないのか、ただ腕を組んでいた。


(カルノさんに聞いてみましょう)


(何で?)


(あの人クラスなら、あるかもしれないわ。転移魔法)


 転移魔法? その言葉に思わず聞くと体を震わす。

 転移魔法とは、その名の通り物体や人間を指定した場所に転移させる魔法だ。


 瞬間的に移動ができるためとても重宝されるが、相当ランクが高い人しか使えないし、転移させるものも人間くらいがせいぜいだ。


 確か、カルノさんはそれが使えるんだっけ。


(やるだけ、やってみましょう)


 私はコクリとうなづく。


 そして私達は、再びカルノさんのところへ向っていった。



 カルノさんの家に再び到着。

 またあの応接室へ。


 席について一番に、私は言い放つ。


「お願い。私をリムランドに連れて行って」


「転移魔法を、使ってほしいってことかい?」


「その通りよ。急いでリムランドに、どうしても行きたいの」


 転移魔法というのはこの世界の中でもかなり上位に位置する魔法だ。


 かなりのクラスの術者でなければ使えないし、使った反動だってそれなりにあるはずだ。

 ちょっと図々しいお願いになってしまうが、


「お金なら──何とかします。だから、お願いします」


 私は、ほぼ直角に頭を下げた。


「わかった。君がそこまで言うなら、それ相応の理由があるのだろう。認めよう」


「あ、ありがとうございます」


 そして私達は部屋を出て外の庭へ。


 広い庭の原っぱの中心に、私とライナがいる。


「じゃあ、一緒に行こう」


 そして、私の隣にカルノさんが立つ。


「では2人とも、行くよ──」



 カルノさんは大きな杖を握って何かしゃべり始めた。

 私達には聞こえない、小さな声。恐らく、術式の詠唱だろう。


 身体がほんのりと白っぽい光に包まれる。

 そして、ふわっとしたような感覚に包まれる。


 カルノさんは詠唱を終えこちらに視線を向けた。


「では、転送しますよ。行きます」


 そして私の視界が真っ白になった。

 身体感覚がなくなる。


 絶対、バルティカの悪行を暴いて、阻止してやるんだから。




 ブルム視点。


 バルティカとの会談を終え、ふたたびリムランドへ。


「おかえりなさいませ、ブルム様」


 宮殿につくなりメイドの女が俺に頭を下げる。

 俺も、それなりに高い地位を気付いたということがわかる。


 そのまま自分の部屋に帰り、荷物を整理。そして、とある人物のところに行く。


 階段を登り、目的の場所へ。


 コンコン──。


「誰だ」


「俺だよ」


「入れ」


 ヘイグだ。

 先代の国王の時代からの側近であり、王国の中ではソニータ以上の影響力を持っている人物だ。


 そして、俺もヘイグと以前から接近していた。

 ヘイグ様の利益のための行動し、今では彼に気に入ってもらえるような存在にまでなった。


 中は豪華な絨毯に、高級そうな家具。


 中央の応接用のソファーに腰掛けている。


 俺はヘイグの向かい側の席の椅子に座りながら、ぺこりと頭を下げる。


「やはり、この国で一番優れているのはヘイグ様であります」


「当然だ、どれだけの修羅場を潜り抜けて言うと思っている。ずっとリムランドにいたのだ。あんないつも王室にふんぞり返っている小娘と一緒にするな」


「それもそうですね。あいつはもう見切りました。このブルム、ヘイグ様にお仕えすることを誓います」


「──礼を言うぞ」


 そう言ってヘイグは葉巻を吸い始め、外に景色を置いた。

 そのタイミングで、話を始める。


「簡潔に言います。バルティカとの取引の利益を、私達で独占させることに成功しました」


 ヘイグがフッと笑って、言葉を返した。


「よくやったぞ。どんな感じだ?」


「バルティカとの取引をする商会ですが、そこにかかわる奴らを全員俺達の息がかかったやつら持して、ソニータとかかわりがあるやつを、地方に飛ばしたり、左遷させたりしました」


「──ご苦労」


 ヘイグが手を組んで言葉を返した。

 ここまで、大変だった。権力を使い、あの手この手でソニータとかかわりがある奴を陥れ、バルティカから追い出していった。


 コンラートとかいう曲者までは手出しができず、完全ではないが、これでバルティカの権益は俺達リムランドのヘイグ派とバルティカの物。


 ソニータに利益はいかない。面目は丸つぶれだ。


「これで、俺達に逆らえる奴はいません」


「しかし、センドラーがいたらしいな。何かやってくるな、あいつ」


「大丈夫ですよ。あいつは終わった存在、俺の足元にも及びません」


 こいつもセンドラーのことを気にしているのか。ずっとリムランドにいた終わったやつを気に掛けるとは、こいつも落ちたものだ。


 こいつも、ソニータと一緒だ。今は価値があるから利用してやっているが、俺が成り上がったら、真っ先に切り捨ててやる。


 俺は、そうやって生きてきた。

 この国ではそうだ。ヘイグだって、ソニータだってそう。


 出し抜くために、成り上がるために、裏切り、手を組む。そして、使えない奴、敗者は切り捨てられ、消えていく運命。


 家族がそうだった。国内の政治闘争に揉まれ、敗れ、敗北者とののしられ地位を失い貧しい暮らしを強いられた。惨めな暮らしを強いられた俺は、絶対にそうならないと誓い、この地位までのし上がった。


 今度は俺が、欺いてやるんだ。俺達を陥れたやつらに──。


「では、このブルム。バルティカの奴らと話を進めるために──行ってきます」


「行ってこい!」


 そして俺はもう一度バルティカへと飛ぶ。


 ソニータめ、センドラーめ、見ていろ。

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