第91話 打つ手──

「バルティカ自体が、リムランドをダマしているんだと思う」


「その通りだと思います」


 カルノさんによると、秘密裏にバルティカの動きを追っていたのだが、彼らの様相にいろいろと不審な点が見られるようだ。

 政府内は不正やわいろにまみれているらしく、確実に大きな不正が存在していると、自信をもってコクリとうなづいた。


「何とか、ブルムにあって話を付けないと……」


 とはいえ、そんな簡単な話ではない。


 ここからラストピアまでまともに行こうとすれば、早馬を使ってでも2週間はかかる。

 ブルムとアポイントを取って、話し合って──。


 そう考えると時間がかかりすぎてしまう。それで会えればまだいいのだが、どこかに行っていたり、そもそも会うのを拒絶される可能性だって十分にある。

 それでもやるしかないのか…。


 額に手を当てながら考えこんでいると──。



「ブルムは、この街に来ていますよ。


「ふぇっ?」


 思わず変な声を発してしまった。


 カルノさんの言葉に私達は驚愕する。すぐに詰め寄った。


「それで、どんなことをしているんですか?」


「連日、バルティカの人達と何か話し合いをしているそうです」


 話し合い? わざわざこんなところに来てまで、何を──。


「ただ──どんなことを話しているかは、こっちもつかめておりません。政府内の知人から、そのような話を聞いて、実際に調べて彼の姿が確認できた。それだけなんです」


 申し訳なさそうに頭を下げるカルノさん。


「だ、大丈夫ですよ。それがわかっただけで素晴らしいことですし。本当にありがとうございます」


 のトップのズデーク、その執事であるエリオ。


(絶対、何かあるわね……)


 センドラーの言う通りだ。ようやくできた手掛かり。これが、何かの突破口になるといいな……。




 嫌な奴だけど、仕方がない。


「しょうがない。ブルムのところに、直接乗り込んでいってくる」


「でも、彼ってセンドラー様のこと、とても嫌ってましたよね」


 ライナの言う通りだ。


「でも、それしかない。私だっていやだけど、そんな感情的なこと、行ってる場合じゃない」


「……分かりました」


 ライナの、自身がなさそうな表情。私もだ、私への憎しみ具合を考えれば、とても彼が話を聞いてくれるとは思えない。


 けれど、それ以外に道はない。やるしかない──。


「行こう──」


「はい」


 私達はブルムの元へと足を進める。


「ブルム。話を聞いて」


 私の言葉に、ブルムは体をピクリと動かさせ、びっくりとした様子でこっちを向いた。


「な、な、何だよお前……。なんでこんなところに」


 動揺したブルムの隣に立ち、説明を始めた。


「よく話を聞いて。バルティカの財務状況に不審な点があるの。これ、受け取って──」


 半ば押し付けるように、その書類を渡す。しかし……。


「う、うるっせぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 そして、私が渡した書類をバシンと地面にたたきつけた挙句、ずんずんと何度も踏みつけた。


「お前の言うことなんて聞かねぇよ。バーーカ!!」


 予想はしていたし、こうなるとは思っていた。それでも、粘り強く何度も渡そうとする。


「お願い、今はいがみ合ってる場合じゃないの。お願い。話を聞──」


「うるっせぇ部外者。お前の話なんか聞くわけないだろう」


 ブルムは激高し、話を聞こうともしない。


「お前が不正を暴いたせいで、俺の父さんが失脚したんだ。立場が悪くなり、地位も低下した。お前のせいだ、復讐してやる」


「逆恨みじゃない。悪いことしたんだから処罰されるのは当たり前でしょ!」」



(もういいわ。こいつにいくら言っても無駄よ。後替わって)


(そうね……。はい)


 私はため息をついた後、センドラーと人格を変える。


 腕を組んでキリっとした表情になり、話しかけた。


「あんたが器が小さい小物で、人の上に立つ資格なんてないというのが良く分かったわ」


「はっ、この期に及んで負けおしみかよ」


「後で吠えをかいても、知らないわよ」


「あ? 自分に言い聞かせたんだな?」


 もう、聞く耳も持ってないという感じだ。


 その後をつけていこうとする人物が一名。

 さっきまで、ブルムの後ろにただ立っていた人物。



 恐らく警備も兼ねている側近の一人だ。無駄だと思うけれど、とりあえず言ってみよう。

 渡すことに、価値がある。これで、私達はマリスネスに不審な点があると伝えたということになり、いざというときにこいつらに責任を問えるからだ。


「これ、一応受け取って。バルティカの資金や人の流れにいろいろと不審な所があるの。それをまとめた書類よ」


 側近の人は戸惑っている感じだ。しかし、こっちも渡さないわけにはいかないので、強引に渡した。


「──受け取りなさい。絶対に渡して。良いわね」


「……分かりました」



 言葉を返すものの、あからさまに不満そうな顔。これじゃあ、望み薄ね。

 そして私もこの場を去っていく。


 その後、リムランドの動きをよく観察した。

 しかし、ブルムからの動きは全くなかった。


 何もしなかったのだろう。自分が死ぬほど恨んでいる、私の言葉など耳に入れることすら嫌だ。


 そんなふうに思っているのが手に取るようにわかる。





 どうすればいいか、考え込む私。

 本当にリムランドに行くしかないのか?


 そう葛藤していた時、私に声をかけてくれたのはセンドラーだった。


(そうとう煮詰まってるようね)

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