第90話 やり取り

 その表情から、理解できる。コンラートも、バルティカに対して思うようなことがあるのだろうと──。


「ちょっと待ってろ」


 コンラートはぶっきらぼうにそう言うと、後ろにある戸棚をガサゴソとあさり始めた。


「これだ」


 コンラートが見せてきたのは物資の売買に関する領収書。

 物資の動きに、不信な動きがあるとのことだった。


「俺達は国同士の交易品を取り扱っている。その地でしか手に入らない資源、食料、高級品など……」


「確か、そうだったわね」


「バルティカからは鉱山などで買い付けている物資をリムランドに売っているんだが、これ、わかるか?」


 好物や資源、香辛料などの交易品。それを買い付けているやり取りの領収書。

 おかしなところがないか入念にチェック。そして、おかしなところに気付いた。


「ちょっと、高すぎない?」


 私が驚いたのはその値段設定。いくらなんでも高すぎる。


 どれも、相場の2倍や3倍はする値段だ。


「どういうことなのこれ」


「わからん。だからこうして追っている最中だ」


 しかし、両国の間に不審な動きがあることは確かだ。

 それなら、一緒にそれを追ってみよう。


「すごいじゃない。私も、協力するわ」


「いいよ。力を貸してやる」


「ありがとう」


 私達は強く結託した。

 灯が見えて来た。これなら、行けそうだ。






 次の日、ライナを引き連れて再びライムズ商会へ。

 そこで、衝撃的な光景を目の当たりにした。


「センドラー様、何ですかこれ」


「私にも、わからない」


 書類があっちこっちに散らばっている。戸棚は倒れていて、机の上にあった花瓶は地面にたたきつけられたかのようにガシャンと割れていた。


 まるで、クマがこの部屋にはいって大暴れしたみたいだ。そして、奥の扉がキィィと開く。


「コンラート──ってどうしたのよ。その姿」


 扉から現れたのはコンラート──。だったのだが、その姿に思わず言葉を失う。


 そして慌てて詰め寄った。


 体は傷だらけ、服はボロボロ。顔には殴られたようなあざがある。


「何があったの?」


 私の問いかけに、コンラートは沈黙。黙って椅子に座り込む。

 そして、肘を机において、顔を両手で覆う。私も、コンラートを見ながら席に着いた。


「あの後の夜のことだった──」


 私は彼の話をじっと聞く。私達と結託した日の夜。


 もう遅く、奥にある部屋のベッドにつこうとしたころ。ガサゴソとこの部屋から物音が聞こえ始めた。

 何事かと思い慎重に部屋の様子を見てみると──。


 ドォォン!! ドォォン!!


 いきなり扉を強く蹴り飛ばすような音が聞こえた。何度かその音がしたかと思うと、扉が壊れ誰かが入ってきた。


 コンラートは怯えながら話しかける。


「何の用だ。何しに来た」


 扉を壊し入ってきたのは黒い甲冑を着た数人の騎士。

 彼らの中の一人が前に出る。


「貴様、センドラーと手を組んでいたな。バルティカのことを知ろうとしていたな」


 そしていきなり殴りかかる。魔法が使えるわけでもないコンラートに抵抗のすべなどなく、あっという間にボコボコにされてしまった。


 騎士たちはコンラートを拘束すると、部屋の書類を勝手にあさり始めたのだ。

 乱暴に箱類を開け、中身を確認。必要ないと判断した物は、そこらへんに捨てた。


 そして必要だと感じた書類を自らのバッグに入れた。

 しばらくすると立ち入りが終わったのかコンラートの縄を解き、話しかける。


「命が惜しかったら、この件から手を引け──と」


 そして彼らは部屋を片付けることもせず、この場を去って行った。

 コンラートが集めていた資料を持ち去って──。

「引かない、ですよね」


「当たり前だ。もう頭に来た。絶対この秘密を暴いてやる!」


 コンラートは舌打ちをして、悔しそうに机を強く叩いた。悔しがるのは彼ならば当然だ。


 コンラートは、上から圧力をかけられるとすぐに屈してしまう権力に弱いタイプではない。 逆だ。圧力が強ければ強いほど反発し、敵愾心を持つ。だから私とも馬が合ったんだ。


「それに、これで俺が折れると思ったら大間違いだ」


「資料、奪われたんじゃなかったの?」


「そうだ。だが、ちゃんとスペアは持ってる。こういうことだって、想定してたんだからな」


 そしてコンラートは机の引き出しのそこの板を押す。


「二重底?」


「そうだ」


 私は思わず声を漏らす。板を押すと、クイッとその板が持ち上がり、その下には書類の束が入っていた。


「ほらよ。証拠は、まだ残ってる」



 差し出された書類。その内容は、昨日私が見た書類の内容と一緒だった。

 これなら、行けそう。


「借りていい? どうせ、どこかにスペアはあるんでしょ」


「理由は?」


「こいつらがどんなやり取りをしているのか、しっかりと調査させてもらう」


「わかった。持って行け」


「ありがとう、コンラート」




 そして私達はこの部屋を出て、ふたたびカルノさんのところへ。

 3人で、書類をもとにいろいろ話し合い、一つの結論を出した。

「つまり、バルティカが1番の悪党ってことね」


「そうだ」


 カルノさんによると、バルティカには治安維持を目的に、暴力や犯罪を許容されている秘密憲兵というのが存在しているらしい。


 顔を隠して、黒い騎士の姿をした人々だ。

 コンラートを襲撃したのは、恐らくその人たちだろうとカルノさんは語った。


「バルティカ自体が、リムランドをダマしているんだと思う」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る